目 次
- 1 無期雇用転換制度への疑問と不安
- 2 無期転換ルール適用にある「5年間」の起算はいつから?
- 3 いつから無期労働契約が成立するのか?
- 4 自動で無期契約に転換するのか?
- 5 無期転換申込をしないで有期契約を更新した場合はどうなるか?
- 6 事業所内を移動していた場合は契約期間通算に影響するか?
- 7 有期契約間の空白は通算に影響するか?
- 8 定年後有期雇用となり5年が過ぎる場合は無期転換されるか?
- 9 会社は無期転換の申し込み期間を設定できるか?
- 10 会社は無期転換の申込について事前に説明してくれるのか?
- 11 無期雇用転換申込に書類は必要か?
- 12 派遣労働者は無期転換の権利は得られるか?
- 13 無期転換申込は必ず会社に受けてもらえるのか?
- 14 無期転換のルールから除外されるケースとは?
- 15 無期雇用労働者と正社員に違いはあるか?
- 16 最後に
無期雇用転換制度への疑問と不安
この記事は、無期転換に関心あるけど制度がよくわからないという方向けの記事です。
- よくある疑問を「質問」として見出しにしています。
- それに対する「答え」を解説し少し私感も入れています。
さて、2018年は4月の5年ルールと9月の3年ルールの問題で、数多くの有期契約労働者にとって頭の痛い年でした。なぜなら・・・
- なんだかんだで実質長く勤められていたのに、法制度が変わったために「次は契約を更新しないからね」と「雇止め」を宣告された人が沢山出たからです。
- 今から就職活動しようにも年齢が年齢なだけに難しいことはわかっており、労働条件に不満はあるものの今のままで我慢する、と考えていたのに法改正でそれも叶わなくなった。
この、有期雇用契約と無期雇用契約の狭間で苦しんでいる人たちの心の様子を知るべく、ネット上や新聞の投書欄(相談欄)などを、片っ端から読みました。
そしてわかったことは・・・考え方が、大きく二手に分かれるようです。両端に位置する方はこんな感じです。
- 早くから情報に関心を持ち、会社や労働組合の方向性の情報を人伝いに手繰り寄せ、そしてそれを元に作戦を考え、上司に何度もアタックをかけるほど努力旺盛だが、自分の置かれている立場はクールに理解している人。
- 耳にする情報に怯え、或いは「まさか実績ある私には」と楽観し、感情を動かすだけで理解は極めて浅く然りとて勉強せずアクションも起こさず、出た結果を誰かのせいにして世を恨む人。
以前、会社員に対する大規模なストレステストがあって、それによると、夫婦・親族間の問題を除けば、会社の倒産についで会社を変わる(変えられる)事が大きな心理負担になっているという結果です。
ここからもわかるように、一方的にやめさせられる(会社を変わらざるを得ない)苦痛が、諸々の出来事と比べても如何に心に大きな負担をかけるかは推して知るべしですね。
しかし、できれば 2.のタイプにはなりたくないです。何故なら、自分しか自分を守れないのに、その努力を全く行っていないから。
それに、改正された法律が悪いわけではありません(良いとも言えないけれど・・)。悪い・良いで区別するなら、遵法精神に乗っ取って行動しない、自分たちの都合ばかり考える雇用側が悪いのです。
でも、良い・悪いで考えても労働者にとっては虚しい限りです。
一番大切なことは、与えられた枠の中でどう振る舞うのが自分にとって一番なのかを考えること。
そこをしっかり捕まえて、行動することではないでしょうか。
そのために、まずはルール・法律をちゃんと理解し、そして、ルールに沿った疑問点とその解答をしっかりと押さえて、考えの礎を作ることかなって思います。
以上のような発想からこの記事は、無期雇用にかかるルールを解説するとともに、できるだけ多くの疑問点を明らかにしていきます。
無期転換ルール適用にある「5年間」の起算はいつから?
労働契約法が改正され、2018年4月から、有期労働契約の更新を繰り返し通算で5年を超えると、労働者の申し出により契約期限のない「無期労働契約」への転換ができて、企業はこれを拒否できなくなりました。
この5年を通算カウントする場合、いつから可能なのか? という疑問が出てきます。正解は、2013年4月1日からです。
したがって、それ以前に幾ら長くパートや契約社員として勤めていても、その期間はノーカウントです。
ということは、全く切れ目なく契約を更新していても、通算合計で5年を超えるのは2018年4月1日からになりますね。
もちろん、2013年4月1日以降に有期労働を始めた場合は、その契約に基づく労働開始日から通算カウントのスタートです。
いつから無期労働契約が成立するのか?
まず無期転換の希望を宣言するのが絶対条件です。
宣言ができる期間ですが、これは通算5年を超えた日以降その有期契約が終了するまでの期間にします。
例えば、2013年4月1日に3年の有期契約をし、契約終了後直ちに3年の再契約をすると、契約期間中の2018年3月31日に通算5年となります。
つまり、通算5年を超えるのは2018年4月1日からになり、この日から契約が終了する2019年3月31日までに申し出をすればよいことになります。
そして無期労働契約が成立するのは、契約終了した翌日の2019年4月1日からになります。
自動で無期契約に転換するのか?
上の説明のように申し出をしなければ無期転換はしません。したがって、自動的に無期転換はされないのです。
更に言えば、絶対に無期転換しなければならないこともありません。
今までの有期労働契約が良ければそのままでも問題ありません。(そんな方はほとんどいないでしょうけれど)
無期転換申込をしないで有期契約を更新した場合はどうなるか?
通算で5年を超えていれば、そこから何度有期契約を更新していても今の有期契約の期間中いつでも申込ができます。
ただ、あとで解説しますが、もし無期転換できることを会社から一言も聞かされてなかった事が原因で知らなかったなら、知らせない事自体は違法ではないのですが大問題だと私は思います。
事業所内を移動していた場合は契約期間通算に影響するか?
無期転換の申込権が発生する条件は・・・
- 同一の使用者との間で契約を更新している
- 通算して5年を超えて有期労働契約している
この2点とも揃えば権利が発生します。
「同一の使用者」とは、労働者と契約している主体、つまりは勤めている会社です。
ですからその会社内であれば、どこの部や課に移動してもどこの工場に移っても、契約期間はすべて通算されます。
有期契約間の空白は通算に影響するか?
例えば、1年契約の有期労働契約が満了したのち次の契約まで間が空いたら、無期転換条件の通算期間に影響するか? という質問です。
答えは「影響します」です。
それは、有期労働契約の通算期間の長さによって変わり、例えば、通算契約期間が10ヶ月以上であれば、契約のない期間が6ヶ月以上になった時点でそれまでの通算期間は除外されてしまいます。
これをクーリングといい、そうなったら次の契約でまた一からカウントのスタートです。
※ 詳しくは厚労省の説明文と図をご覧ください。➡︎通算契約期間の計算について(クーリングとは)
特にヒドイのは大手自動車メーカー全社です。
ヒドイ理由? それは、工場で働く大勢の「期間工」と呼ばれる人たちが、どんなに契約を繰り返しても、絶対に通算5年にはならない仕組みを作っているからです。
そう、6ヶ月のクーリング期間をどこも設けており、連続しての契約はできないのです。
不安定な契約労働から解放し、安心して定年まで働ける「無期雇用」というスキームをせっかく作ったのに、クーリングという抜け道を設けてしまったのです。
日本の経済を牽引している代表的な会社が堂々とこんな事をしているんですね。
労働者からしたら信じられない話ですが、要は、そういう力が働いている世界で我々は働いているというのが現実です。
一方、「継続雇用なんて望んでないよ」という人たちがいることも事実です。より多様性へ向かうことは潮流ですね。でも、いつかは仕事できない年金世代になるんですけど、その辺も含めて人生設計してるのでしょうか。
定年後有期雇用となり5年が過ぎる場合は無期転換されるか?
無期契約社員(正社員も含む)として60歳に定年を迎え、その後同じ会社で契約社員として再雇用され、有期契約が5年を超えた場合は無期転換の資格を得ることができるか?という質問です。
今後ますますこういうケースは増えてくるでしょう。答えは「そういう場合でも基本的には同じ無期転換ルールが適用されます」です。
継続雇用の高齢者に関する特例
ところが、細かい話をぶっ飛ばして結論だけを述べると、労働局長の認可を受けると、継続雇用の高齢者に関しては無期転換権が発生しないのです。
無期転換ルールができた時点では、この特例はありませんでした。
一旦無期契約が成立すると労働者本人が退職を希望しない限り、延々と雇い続けなければならないので、それは困るという事業者側の圧力で特例ができたのでしょう。
そんな抜け穴があるなら、事業者なら誰でも特例の申請をしますよね。
そういうわけで現実には多くの場合、無期転換の基本ルールは使われることなく、60歳以降は有期雇用で5年間仕事をし、そこで終了というパターンが多いでしょう。
例 外
ここで述べた高齢者の特例は・・・
無期雇用(正社員含む)で定年を迎え、そのまま同じ事業所で働き続けるという条件下での話です。
ですから・・・
- 定年後別の会社に有期労働者として再就職する場合
- 有期雇用で定年をまたぎ通算5年を超える場合
などは対象外です。
1.の場合は再就職開始時点が無期転換のカウント開始で、5年を過ぎれば基本的に無期転換権利は得られます。また、2.の場合も合理的な別規定がない限り、無期転換はできるはずです。
しかしどんな場合においても、事業所が「第二定年」制度を設けていたりするので、65歳時点で元気であっても、そこから更に何年も継続して雇用されるのは、今の所難しい場合が多いです。
会社は無期転換の申し込み期間を設定できるか?
すでに説明しましたように、通算で5年を超えて有期契約が更新されている場合、その契約期間中はいつでも無期転換の申込ができるのです。大原則です。
つまり、この申込期間に会社が制限をかけることはできないのです。
ところが、会社側が自社都合で、例えば「契約終了の1ヶ月前までに申し出する事」といった定めをした場合、これは有効か?という疑問です。
この定め自体「その契約期間中はいつでも無期転換の申込ができる」に制限をかけていることになるので難しいところです。
が、少なくとも契約更新の際にかわす労働契約書にその旨が明示されていて、かつ、就業規則にも説明されているなど、労働者に著しく不利にならないような配慮があれば、必ずしも設定が無効とは言えません。
会社は無期転換の申込について事前に説明してくれるのか?
有期契約労働者が無期転換できることになった時、事業主はこれを有期契約労働者に知らせ或は説明する義務があるか?という質問です。
驚いたことに、法律上の義務はないのです。
そのくせ、労働条件通知書に「無期転換できる条件と申し出の必要性」をちゃんと記述し周知する事が、紛争を回避する観点から必要だと厚労省は述べているのですよ。
そんな回りくどい事をしないで、ちゃんと法律で義務化すれば済む話です。何故しないのか? 不思議でしょ!?
結論。無期転換の申し出を拒むことはできませんが、申込ができる資格のある有期労働者に事業者が説明する義務はありません。
無期雇用転換申込に書類は必要か?
申込自体は口頭でも法律上は有効です。それだけで契約は成立し、事業者は断る事ができません。
でも現実問題としては、絶対に書面で申し出をしなければなりません。契約に関しては、すべて書面ベースが大原則です。
何故か?
簡単です。「そんなことは聞いていない」と言われた時反論のしようがないからです。あとのトラブルを避けるために必ず紙面で申し出をしてください。
事業所に書式がない場合は、厚労省が参考書式を用意してくれているので、これと同様のものを作成されれば問題ないです。
※ ➡︎無期労働契約転換申込書の参考書式
派遣労働者は無期転換の権利は得られるか?
答え、「得られます」。
派遣労働者は勤務先と契約しているのではなく、派遣会社と契約しています。
なので、派遣会社との有期契約が通算で5年を超える場合に権利が発生します。
しかし、派遣会社に登録しているだけで有期労働契約は発生しません。派遣が決定して初めて、期間の定めがある有期労働契約が成立します。
ですから、5年とはそれぞれの有期労働契約期間の合計になります。ただし、上で述べたクーリングにはご注意ください。
ただ、派遣会社とすれば、当然派遣により収益を上げており、派遣してなんぼなわけです。
なのに、そういう事情に関係なく、必ず給与を支払わねばならない無期契約を望むはずがありません。
よほど囲い込みをしたいほどのスキルを持ってなければ、何らかの回避策を取ってくる可能性は十分あると思います。
無期転換申込は必ず会社に受けてもらえるのか?
労働契約法18条第1項によると・・・
有期労働契約期間を通算合計して5年を超えた場合は、無期転換権を獲得したことになります。
その労働者が今結んでいる有期契約の終了までに無期転換を申し込めば、今の有期契約が終了する翌日から無期契約の労務提供が開始されることになります。
事業者は申し込みがあった時点で承諾したとみなされます。だから事業者はこれを拒否することはできません。
法律ではそういうことなのです。
そうはいっても、事業者はこれを避けるために、有期契約終了までに解雇を通告したり、契約満了をもって雇止めにしたりする可能性は十分にあります。
しかし、これらの行為も労働契約法第16条・第17条によって無効又は認められていません。
だとしても実際問題、理不尽な申し出を突きつけられた労働者はどうすればいいのか?
もし、有期労働者の側に立ってくれる労働組合が社内になければ、労働局に相談し、それで解決しなければ裁判で是非を問う流れです。
日本人は権利を主張するのが苦手なので、そういうデモはほとんどないし、裁判もせず泣き寝入りが圧倒的に多いです。
最終的には本人の判断で自分の行動を決めなきゃしょうがないです。でも、裁判でとことん決着をつける方もおられないわけじゃありません。
以上からわかりますように・・・
- 無期転換回避のために雇止めをした
- 無期転換の申し込みをしたのに雇止めをした
- 無期雇用の制度がないと言われた
- 有期雇用は最長で5年だと言われた(それが就業規則に盛り込まれてたら微妙)
これらは、よほどの正当性・合理性を説明できない限り認められません。
無期転換のルールから除外されるケースとは?
パートでも学生アルバイトでも高齢者でも無期転換ルールは適用されますが、例外的に適用されないケースがあります。
- 国家公務員・地方公務員(独立行政法人の職員などは除く)
- 同居の親族のみを使用する場合
- 船員
但し、民間派遣会社から派遣される労働者は、その派遣先が国や地方自治体であっても、無期転換ルールは適用されます。
無期雇用労働者と正社員に違いはあるか?
「無期雇用契約」という意味では、いわゆる無期契約労働者と正社員は同じです。申し出をしない限り、両者とも定年まで働けます。
一方、労働条件は、労働契約法第18条第1項によると・・・
としています。つまり、労働条件は有期で働いていた時と同じだと言ってるんですね。
ところが条文はそこで終わらず、事業所は「別段の定め」を置くことができる、とあるんですね。
「別段の定め」の内容がどんなものかは事業所ごとに違うでしょうが、少なくとも、責任は正社員並みを要求し待遇は落差をつけるような内容であれば、安易にハンコは押せないでしょう。
何れにしても、ごく一部の例外を除いては、無期転換労働者 ≠ 正社員 です。
※ 派遣法改正に関心のある方はこの記事をお読みください・・・
最後に
無期転換に関心があるあなたが疑問に思っていること、そしてその回答を精力的に載せてみました。
わだかまりのかなりの部分が解消したのではないでしょうか。それとともに、もしかしたら法の無力さを感じておられるかもしれません。
こだわりの細かい説明が必要な部分もあったのですが、ほぼ省略しました。理由は、あなたがそこまで必要としていないのではないか、という推測です。
それよりも、できるだけQ&Aを数多く載せる方がいいのかなと思いました。
この記事が、少しでも疑問の解消や知らざる不安の解消に役立ったのであれば、とっても嬉しいです。
※ こういう場合はどうする?・・・
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