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年収と住宅ローン借入の限界
一説によると年収の7倍程度、返済しやすい目処として5倍というような事が言われたりします。例えば年収が420万円であれば借入限度は420万円×7=2,940万円ということです。
果たしてどうなのでしょうか?
一方、よく目にする返済負担率というものがあります。フラット35では年収400万円が境目で、年間返済比率が400万円未満なら30%以下、以上なら35%以下とされているようです。
この発想はどこの家庭にも当てはまるの?
さて、どんなやり方にせよ何らかの「借入可能額」が算出されます。問題は、方法を問わず出てきた答えが、それって本当にあなたに相応しい借入限界なのかという事です。
→年収から借入可能額を計算
同じ年収同じ家族構成なのに全く違う生活
銀行に就職をして最初の数年間は一般のご家庭を訪問する外交をやっていました。その時の話です。
ある会社の社宅近くに銀行がなくて、私の勤めていた銀行が給与振り込み指定行になっていました。なのでどのお宅にいくら振り込まれているかは把握していたのです。
同じ社宅のA家とB家はほぼ同じ金額の受け取りです。家族構成は両家ともお子さんが2人の4人家族。ご主人達は同期だとおっしゃっていました。
A家の奥さんは毎月少しづつ積み立てをしてボーナスからは必ず定期預金をしていました。ところがB家の奥さんは貯蓄0円です。
お伺いするたびに口を突いて出るのは愚痴ばかり。「お金が足りない。生活が苦しい」。生活費以外に何も特別な支出はないと仰っていました。
A家の奥さんは見るからに質素倹約というような生活をしているようには見えませんでした。むしろ室内は綺麗でご本人もスタイリッシュでかっこいいと私は感じていました。
こんな感じで5年も過ぎたらどうなっていると想像できます?
どちらが良いとか悪いとかを言いたいのではありません。同じような経済条件で生活していてもこんなに違うんだ、違ってくるのだという点を理解して欲しいのです。
借りられる限度額は本当の限度額か
A家B家の例を通してわかることは、同じ年収であっても生活内容はまるで違うという事です。
スタートはほぼ同じなのに一方は着実にお金を残し、他方は全く残さないどころかカードローンなんかに走る可能性すらあるわけです。
表面的な計算で4,000万円借りられると出ても、それだけをもってあなたに最適と言えない事は明らかです。
A家は住宅ローンを借りる実計画がそれなりに立てられるでしょう。しかし同じ給与をもらっているのにB家は住宅購入の計画すら立てられません。
もしB家夫婦が内在する危機に気づかずに住宅ローンを申し込み、4,000万円借りたらどうなると思いますか?
B家に近いケースは特別ではありません。「ありえない無頓着さ」は人のことだからわかるのであって自分のことになると案外見えなくなってしまうものです。
或いは、借入の危うさを薄々感づいていても新居が欲しいという誘惑が勝ってしまうケースは珍しくありません。
本当に借りられる借入限度額とは?
じゃあ住宅購入にあたって借りる住宅ローンの限度額は何を拠り所にして決めたらいいのかって話ですよね。
ズバリ、返済能力です。毎月毎年確実に返せる金額から借入限度額を計算すれば良いのです。「当たり前のことを言うな」と言われそうですが、案外理解されていません。
みんな貸し手のスキームにはまってしまってます。A家とB家の実例を決して忘れないでください。表面的な年収で決められる、あなたに最適な借入限度額なんてありません。
銀行の各支店には半年ごとに沢山の目標が割り当てられます。各支店の人間は、その預金目標を見て融資目標を見てめまいがするのです。
もし、その目標の中に「住宅ローン増強」が入っていたりするとあっと驚く事態に遭遇する可能性が低いけれどないとは言い切れません。
先日住宅ローンの依頼を断ったばかりなのに、銀行の担当者が来て「再度検討させてください!」とか言ったりする可能性も。理由を聞いても、もちろん「今季の目標が・・」なんてまず言わないでしょうけれど。
借入限度額を把握する手法
毎月の収支を把握することが大前提です。きちっと一年間家計収支を記録して分析すればあなたのお家の支出状況は把握できるようになります。
その手段として他の記事でも紹介していますが、マネーフォーワードというネットアプリは非常に良くできていて使いやすいと思います。勿論私も愛用者です。
きちっと登録さえしておけば、財布からの現金支払い以外はほぼ自動で入力されます。現金支払いの内訳は手打ち入力します。
収入に応じた安定した貯蓄なり返済なりができる家計には特徴があります。それは、「必ず継続的に必要な支出」が低く安定しているというところです。つまり
- 1.食費
- 2.水光熱費
- 3.通信費⇦最も抑えやすい項目なのに突出している人は要注意です。
といったものです。それぞれのご家庭で千差万別ではありますが「世帯別年齢別支出内訳」みたいなネット情報は、前向きな心にはある程度参考になると思います。
さて、上手に把握するコツは支出をあまりタイトに考えないことです。ほぼ必ず「これは特別な支出だから」というものが毎月出てきます。ですからそれらも平均化して毎月の支出として織り込んでください。
そうして「毎月この金額なら返せる」という金額がはっきり見えてきたら、そこから1万円とか2万円を引いてください。それが安全返済能力です。
勿論将来の収支は変動するので、それは個別に考え計画する必要があります。上述のマネーフォーワードでも家計シミュレーションができます。
実際の計算
エクセルに強い方はPV関数の応用で、毎月返済額・借入年数・年利から借入限度額が簡単に出せます。
ネット上ではみずほ銀行のシミュレーション・サイトが非常に使いやすいです。このサイトを使ってやってみましょうか。
- もし家を買えば間違いなく毎月返せる金額が12万円
- ボーナス月は20万円(平月の12万円+ボーナス8万円)
- 借入固定金利1.6%
- 借入期間30年
と入力すると、答えは3,811万円と出てきました。これが借入限度額です。
- 総返済額は年間返済額160万円×30年=4,800万円となり
- そのうち総支払利息は4,800万円ー3,811万円=989万円となります。
上で紹介した住宅記入支援機構の「年収から借入可能額を計算」での計算結果と比較してみてください。
「毎月返済可能額から」と「年収から」の、それぞれの借入限度額は実際に出てきた答えを比べてどうだったでしょうか。
毎月返済可能額の出し方によって大きくぶれるので一概には言えませんが、十分に家計分析をする力がついてきた人が出せば概ね「毎月返済可能額から」の方が「年収から」より小さい金額になるはずです。
尚、このみずほ銀行のサイトは非常に使いやすいので、いろいろと数値を変えて比較確認してみてください。大きな数字に慣れることも大切です。
やってはいけない事
2重ローン
例えば車のローンの残債がある状態で住宅ローンを申し込むようなケースの事です。返済能力が落ちてしまうという事もあるのですが、それよりもっと単純に2重3重のローンを組んではいけない、と覚えておいてください。
これは住宅購入以後にも言える事でして、例えば昇給してゆとりが出た(と感じる)からテレビを買い換えましょう。分割払いにしましょう。車が古くなったから買い換えましょう。60回払いにしましょう。
これらは良くないという話です。ゆとりができたなら借入じゃなくお金を貯めて欲しいものを買いましょうという事です。
多分あれこれ反発を受ける提言だとは思います。しかし合理的な経済行動がどうとか、合理的な金銭感覚がどうとか、そんな机上の空論を言っているのではありません。
実際に事故率が高くなるのですよ。せっかく幸せに暮らす努力をしているのに金融地獄に落ちてどうします。一旦落ちてしまえばありえないくらいの苦しみを体験するのですよ。
結構断定的に書いてはいますが、勿論判断は常に相対的なものです。A家B家の例じゃないですが、しっかり金銭コントロールができるご家庭は貯蓄もローンも上手で私の出る幕はありません。
心配症候群にかかったようにあれこれ書いている理由は一つ。それだけ多くの無茶を見てきているということです。
利害関係者の誘いに乗らない
マイホーム購入。計画から本格的なアクションに移ったら住宅販売会社や金融機関との商談になるわけです。
彼らの話を聞く時は必ず一歩引いて聞きましょう。安易に乗ってろくなことはありません。
- 「大丈夫大丈夫、ご主人の年収ならこの物件が最適ですよ。今まで300件以上の販売実績がある私が言うのですから」
- 「ご主人でしたら〜くらいは十分お貸しできます。任せておいてください」
彼らが熱心にやっているのは商売です。今使っている時間が成約に結びつくように一生懸命になっているのです。あなたのためを思っているとか思っていないとかそういう話ではありません。
一歩引いて冷静に聞けばいいだけのことです。あなたに最適な選択はあなたにしか出来ません。
まとめ
住宅ローンを組むに際して上限額をどう考えるか? 少しはお役に立てたでしょうか。
私は何を目的としてこの記事を書いているのか? それは、借入が原因で発生する事故にできるだけ遭遇しないでいただきたいというこの一点です。
関連する記事にも共通する私の考え方は経済的リスクからの回避です。もちろん完全回避などという極論では生活できなくなるのでそういうことではありません。
経済的リスクを全く背負わずに生きてゆくことはできませんが、できる限りは気をつけて排除しつつ経済的目的(住宅購入)も達成しようという観点で論じています。
なのであなたにとっては鬱陶しい記述部分もあるでしょうが、どうぞお許しください。
今回は、家計管理や住宅ローンのシミュレーションなど、ある程度実践練習を通して感覚的にも理解して、初めて使えることの大切さを力説しました。
アクションを起こされる時にはそういう努力が血となり肉となって役立つことをお祈りしています。
おまけ(銀行は何を見て与信判断しているのか?)
銀行は住宅ローンの書類を受け付けて、何を見てどのように与信判断をしているのでしょうか。ごく大雑把に言えば見ているのは2点だけです。
返済能力
まさに毎月きちんと返済する能力です。
それを判断するために使われるのが勤務先や勤務年数や現在の職位や転職回数などです。
一般論として、資本金1千万円従業員10人の会社に3年勤めているよりも東証一部上場会社に10年勤めている方が高く評価されるのは、それだけ安定した返済能力があると見なされるからです。(良し悪しの話ではないので誤解しないでくださいね)
同じ意味から、合理的な説明のつかない転職が多い場合は当然マイナス評価です。
さらに過去の借入に関する履歴も極めて重要です。個人情報を照会した結果、返済に悪質な延滞実績があったりクレジットカードで事故を起こしていたりしたら、如何に背景がよくてもアウトの可能性大です。
事故を起こしてしまっていた場合の対応
銀行の方も細かい部分までわかるわけではないです。だから婉曲的に質問してきます。
この際にいい加減な返事をすると良い結果にはつながりません。正直に筋道を立てて話すことが重要です。なぜそうなったのか、現在権利義務関係は残っているのか。虚偽申告、作り話は意味がありません!
現在、完全に解決しているのであれば、再発要因がないと判断されれば、可能性はあります。
保全能力
もしも借入人が返済不能になった時にでも、ちゃんと回収が出来るようにあらかじめ受けている保証や担保のことです。
住宅ローンの保全は保証会社の保証です。フラット35は貸出債権を住宅金融支援機構が100%買い取ってくれるのでいづれにしてもリスクがありません。
住宅ローンは保全管理を実質他社が行うのでこの点については少し銀行自身甘いかもしれません。
つまり銀行がOKで書類を保証会社や住宅金融支援機構に回しても、回した先ででアウトになるケースが良くあります。そういうもんだと心得ておいてください。
超レアなケースとして直担住宅ローンというのもあります。そんなものの説明はどこにもないし質問しても「ない」と言われるでしょう。
つまり保全管理・担保管理を自行でする、保証会社などを使わない住宅ローンです。所詮商売ですから、それでもやりたいと判断すればやるのです。
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