支配され続けた台湾人のアイデンティティーと忠烈祠そして日本人の理解

台湾人は中国人ではない

学術的な難しい話は専門家にお任せして・・、ここでは私が15年に亘って台湾の本省人から聴き続けた話をベースに述べます。

未だに台湾と中国の区別がつかない日本人が大勢いらっしゃいます。同じ漢民族だから台湾人も中国人も変わらないと無茶苦茶を言う人もたくさんいます。

でも本当は違うんですね。

2016年の総統選挙では中国国民党にノーを突き付けた台湾人ですが、ひときわ印象に残っているのは民進党の大集会で人々が大スクリーンに映ったフレーズを大合唱するシーンです。

「我是台湾人」(私は台湾人だ)

まさに、この一言に台湾人の思いが凝縮されています

 

忠烈祠や中正記念堂は台湾人にとって何なのか

2014年に始まったひまわり学生運動を見ても、歴史に翻弄され続けた末に彼らが取った選択は自主独立、台湾人としてのアイデンティティーですね。

一方、中国国民党は終戦後日本と入れ替わりで台湾に入ってきた中国人です。この中国人たちは自分たちにとって都合が悪い台湾人を多く殺し投獄し、長く厳戒令を敷いてきました。

台湾に連れてきた中国国民党員には住環境や職業など多くの部分で優遇をし、台湾人に対しては厳戒令と要所要所で金をばらまくことで政策を有効にしてきました。

二二八和平記念館に行くと日本語堪能なボランティアの方が、そのへんの事情を詳しく教えてくれます。

そうして中国人としての立場で建設したものが忠烈祠であり中正記念堂です

 

国民党の都合と台湾人の自主独立

また例えば、中国国民党は孫文を国家の父と教えますが違います。孫文は中国で革命を起こした人で、国民党には関係があっても台湾人には何の関係もない人物です。

どこまでいっても中国人としての立場を台湾人に強要しているのが中国国民党です

そんなだから、ネットが発達していない時代は日本に来てはじめて真実の歴史を知ったという台湾人は多いです。

 

厳戒令が解かれて折角民主化のうねりが高まってきたのに、中国国民党のより望む方向へと明確に突き進んでいったのが前総統の馬英九です。

彼はより中国に近づき、より中国の手の内に入ってゆくような姿勢に終始しましたね。

しかし遂に2016年の総統選挙において台湾の人たちは「我是台湾人」のアイデンティティーの元、中国国民党にノーをつきつけ、ノーを実現したのです。

中国国民党が再び第一党に返り咲くことはないというのが多くの台湾人の見立てです。

 

国民党・外省人の台湾人化

一方において、中国国民党党員として大陸から渡ってきた人の子孫が変わりつつあるもの事実です。

元からの台湾人と結婚した人もたくさんいます。自由国・台湾の文化にすっかり染まった人もたくさんいます。

ですから一元的な理解では現実と乖離してしまうことも有るのですが、それはそれとして事実を見てまっすぐに把握していくことが大切だと思います。

 

衛兵は名誉か

さて、今回ご紹介している忠烈祠の衛兵はもちろん本物の軍人です。

台湾は徴兵制が敷かれていて、19歳になると決められた時期に入隊しなければなりません。期間は意外に短く4ヶ月間です。

厳しいこと苦しいことはどこの男でも嫌がるわけですが、台湾の兵役期間も2年弱→1年→4ヶ月とスゴイ期間減少化傾向です。

そうして入隊した者の中から厳しい資格審査で選びぬかれ更に厳しい訓練もこなし、やっとなれるのが衛兵(儀杖兵)です。

当然中国国民党は名誉なことだと擦りこむし、兵士の親御さんも鼻が高いでしょう。しかし、全ての台湾人がそう思っているわけではありません。

衛兵に選ばれても辞退する権利はあります。

例えば中正記念堂に祀られている蒋介石はとんでもない数の台湾人を理由なく殺しています。そんな人間を元からの台湾人が守りたいと思うでしょうか?

 

日本人の理解

台湾は歴史に翻弄され続けてきました。また九州ほどの面積しかないのに20近くもの文化も言葉も違う民族が暮らしています。

自分たちのアイデンティティーを守ることがどれだけ困難かをみんな身にしみてわかっています。

こういったことを全く理解できないのが現代の多くの日本人です。もちろん私も台湾と関係を持つまでは全くと言っていいほど何も知りませんでした。

知らない理由は幾つか考えられます。

  1. 支配された歴史がないから、支配国の言いなりになる苦しさがわからない。
  2. 学校で教えない。そもそも教師が知らない。
  3. マスコミが報道しない、若しくは偏向報道する。中国・朝鮮半島ほどに関心がない。
  4. そういった環境下で、なかなか関心が高まらない。

しかしですね、日本は台湾を50年も支配していました。その影響が今も良くも悪くも色濃く残っています。そしてまた、日本もものすごい数の台湾人を殺しています。

知らないではすまないと思うんですよね。

最後に、別記事「絶対行きたい!台湾旅行の1番人気スポット「九份」の情報」でも紹介している「非情城市」予告編の中の人物が、支配者に翻弄される辛さを嘆いています。ほんの数秒間ですが実に的確で心打たれます。

(追記:2018年11月29日)

先の統一地方選挙にて中国国民党の大勝利に終わりました。

ちょっと前から高雄や花蓮の知り合いから「景気が悪い。次は民進党には投票しない」と聞いていました。相当こたえていたようです。

「中国の一部になるなんてサラサラ考えていないけれど、中国から受ける経済的恩恵は来来」みたいにも聞こえました。

台湾はGDPの4割以上を中国に依存しているので、残念ではありますが、傾くべくして傾いたのかな、というのが実感です。

 

中国は戦後、周辺の民族になしてきた残虐行為、返済不可能を見越して多くを貸し付けインフラ整備をして最終的に港湾などの権利を多くの途上国から奪ってきた事実。

いやいや、そんなに幅広く見なくても、一国二制度が全く機能していない香港の実態を見るだけでも台湾の行く末はそんなに甘くないとわかりそうなものですが・・・

 

多くの台湾人は今何を思うのでしょう。台湾の未来像をどんなふうに思い描いているのでしょう。

当然ながら、私は外国人なのでハラハラしながら、ただただ傍観している以外に能はありません。

あまりの激変だったので、ちょっと何をどう考え頭の中で整理したらいいのか、まだよくわからない状態です。