目 次
生卵を買い込んでいる理由
我が家の冷蔵庫には、常に生卵の10個パックが4つか5つあります。
ある日突然・・・
- これってどれくらい持つのだろう?
- 賞味期限の意味は?
って疑問に思ったので、ちょっと真剣に調べてみました。
昔、母に「腐った卵は怖い」とかって言われたのを思い出したからかもしれません。
「それにしても何でそんなに買いためてるの? 玉子屋でもするのか?」 ちゃいますちゃいます。毎日ゆで卵を食べるからです。
ゆで卵? そうです。健康管理のために食事内容に気をつけています。
生卵の鮮度とゆで卵
いきなり脱線しますが、あなたはゆで卵好きですか?
好きなら食べる回数も多いし、きっと殻むきでイラっとした経験があるでしょう。不用意にむいて、殻に身が一杯ついてきてしまった時の腹立たしさ。
私なんかもう何回も経験していて「ムカついているだけでは解決しないな」と思い原因と対策について調べました。
そしてわかった事。二酸化炭素が元凶だったのです。
新鮮な卵の白身には二酸化炭素が多く含まれていて、茹でるとこの二酸化炭素が高圧状態にななるため、薄皮が押されて殻にへばりつくようになります。
結果、殻と薄皮がくっついて剥きにくくなるのです。それとともに二酸化炭素は、みっちりもっちりとした食感も奪い美味しくなくなります。
- 新鮮な卵のゆで卵は二酸化炭素が多いため薄皮と殻が密着し剥きにくい
- 新鮮な卵のゆで卵は二酸化炭素が多いため食感が悪い
実は、卵の殻には沢山の小さな気孔が空いており、時とともにここから二酸化炭素が放出されます。私はこれを知っていたので、常に数パックの卵を寝かせており、それが冒頭の冷蔵庫の話に繋がるのです。
脱線ついでですが、ゆで卵は圧力鍋で作ると短時間で出来上がります。当然茹で時間が長すぎると殻が割れるので、タイミングを覚えるのに練習が必要ですが、これ本当に便利です。
生卵は強い
冷蔵庫に卵を4パックも5パックも入れていたら、発作的に「いつまで置いておいていいのか大丈夫なのか?」が気になった、というお話です。
ところがですね、想像以上に生卵は強いということがわかりました。
卵は次世代へ命を繋ぐプロセスの一部なので、そんなところに簡単に細菌が入ってきたりしたら、安定して種の保存ができなくなってしまうのですね。
それは人間でも同じであり、普通の状態であれば子宮内は極めて安全な場所です。トラブルがあるとすれば、その多くは、出産後母体が衰弱して子宮頸管が開いており、胎盤がまだ残っているような時に発生するのです。
さて生卵。現実問題として考えると、生卵を食べて食中毒を起こしたというニュースってほとんどないんですよね。本当に見たことや聞いたことがありません。
事故としてニュースに出るのは加工した調理したものばかりです。
生卵にヒビが入っていたりしたら話は別ですが、そうでなければ上記のように、生卵はもともと細菌が入りにくい仕組みを持っています。つまり腐りにくいのです。
では、どのようにして生卵は健全な状態を保っているのでしょうか。その辺について一緒に見て行きましょう。
何重もの安全システム
クチクラ層
クチクラ層とは卵の表面を覆う薄い膜のことです。
産み落とされた鶏の卵は粘液で覆われていますが、やがて数時間も経つと乾いてクチクラ層と呼ばれる10ミクロンほどの薄い膜になります。
卵の表面がザラザラしているのは、このクチクラ層が覆っている証拠です。
さて、このクチクラ層は細菌が殻を通過して、卵の中に侵入してくるのを防ぐ大切な役割を担っています。
卵の殻には沢山の小さな気孔が開いており、そこから二酸化炭素を放出して酸素を取り入れるという、いわば呼吸をしているのですが、それは同時に気孔から細菌やウイルスが侵入する可能性もあるということです。
しかし実は、クチクラがその侵入を防いでいるのです。
ところが私たちが購入している卵は、殻を触ってもザラザラ感がありません。なぜでしょうか。
GPセンター
卵が集められ洗浄殺菌され検査され、そして大きさの選別が行われてパッキングされる、という卵流通の中枢にあるのがGPセンターと呼ばれる施設です。
実はここで卵を洗うんですね。殻には雑菌がついているというのが洗浄の理由らしいですが、上述のクチクラ層は水洗い程度でも簡単に落ちてしまいます。
ですから結果的に、残念ながら非常に重要な細菌防御膜を洗い落としてしまっているわけです。では、大事なクチクラを洗い落としてしまったら、細菌類は容易に卵に侵入し腐敗を早めてしまうのでしょうか?
実はそうは問屋が卸さないのです。防御システム第二段・リゾチームの登場です。
リゾチーム
リゾチームってどっかで見たことありません? そうです、市販の風邪薬に塩化リゾチームとして、ほぼ必ず入ってるあれです。炎症を抑える作用があって重宝されてるんですね。
2016年3月の薬事・食品衛生審議会医薬品再評価部会において、リゾチーム塩酸塩を含む消炎作用を持つ酵素について「医療上の有効性は確認できない」という見解が示され、以後、製薬会社は(自主的に?)回収などの対応をしました。
リゾチーム(Lysozyme)という単語は・・
- 「溶かす(lysis)」
- 「酵素(enzyme)」
を合体させた造語です。
実はこのリゾチームが卵の白身に含まれています。もし細菌が卵の殻を通過して入ってきても、リゾチームが細菌を溶解して死滅させるのです。
だから生卵は腐らず長持ちするわけですね。
卵白リゾチームとして食品業界でも大変重宝されていますが、一つ大きな欠点を持っています。それは、熱に弱いことです。
「リゾチームは熱に弱い」。実は生卵よりゆで卵が日持ちしない理由がここにあります。
ゆで卵は日持ちしない
素人考えでは、熱を十分に通した固ゆで卵の方が生卵より日持ちしそうに思うのですが、上記の通り、茹でる(=熱を加える)とリゾチームの殺菌効果がなくなり、細菌が増殖しやすくなるのです。
そうすると同時に腐敗も進むことになり日持ちがしません。ですから、ゆで卵の方が大幅に日持ちしないのです。それは卵焼きにしたって同じことです。
生活経験からしても、生卵を冷蔵庫で一週間置いておくことはあっても、ゆで卵でそれをするって事はないでしょう!?
卵のその他の生体防御作用
実は生卵の白身は、リゾチーム以外に、幾つもの物質が細菌やウイルスの生存には向かない環境を作っています。
その上、白身の内側には「黄卵膜」という薄い黄身の膜が細菌やウイルスから黄身を保護しております。
黄身自体は細菌やウイルスが繁殖しやすいのですが、そこに到達するまでには何重もの防御作用があって、従ってなかなか腐敗することがないのです。
- 健康な鶏が
- 正常な状態で産んだ卵は
- 殻に異常がなく
- 通常の状態に置く限り
干からびていきこそすれ腐ることはない、と断言する業者さえいます。
黄身を守る保存法
卵を保存する上で大切なことは、胚を含む黄身を殻に接触させないことです。それは、黄身を細菌やウイルスから守るためです。
実は、黄身はカラザというヒモ化したタンパク質で両側から引っ張られて、常に殻の真ん中に位置するようになっています。感心するくらい良くできてますね。
さて、産み落とされたばかりの卵の殻の中はびっちり詰まっていますが、時とともに水分やガスが気孔から抜けて気室という空間ができていきます。
上述のように、黄身が白身に覆われるすごい工夫がされているのですが、気室が大きくなって白身の体積が落ちてくると、黄身は殻に接触する(=汚染の可能性)危険が出てきます。
それを少しでも避けるためには黄身を気室側に置かなければなりません。
ところで気室って卵のどの部分にあるのでしょう。それとも流浪しているのでしょうか。実は場所は決まっていて、殻のとんがってない方にあります。
ですから、冷蔵庫で卵を保管するときは必ずとんがっている方を下に丸い方を上にしなければならないのです。パックに入って売っている生卵も必ずそういう向きに入れてあります。
生卵を細菌から守る手段、つまり腐りにくくする工夫について、卵が持ち備えて入る機能について見てきました。
その上で再度「賞味期限とは?」に戻って行きましょう。
賞味期限とは
日本の場合は生食ができる期限です。卵のパックには必ずその表示があるシールが貼ってますね。概ねパック詰め後二週間程度が一般的です。
「二週間」とは食中毒を起こさない論理的限界点のようなものではなく、もっともっと手前の、一年を通して安心して生食できる期限として業界が設定している日数なのです。
→表示とタマゴの安心
それでも食中毒が起きるときは起きますよ。なぜか?
賞味期限の表示があるシールを見てください。必ず併記されて入る文言があります。それは「冷蔵庫で10℃以下で保管してください」です。
ここが肝心なのです。流通から販売店に至るまで品質を損なわぬよう完全に管理ができていても、それを買った人が誤った保存をしていたら簡単に食中毒になる可能性があるのです。
食中毒のニュースでよく出てくるのが「サルモネラ菌」という細菌ですね。次はサルモネラ菌についてのお話です。
サルモネラ菌
食中毒問題では必ずと言っていいくらい話題に上がるのが「サルモネラ菌」です。そう言うので、ある菌の名称と思っていたのですが実は違うんですね。
サルモネラ属の菌の総称で、血清学的には2,500種類以上にのぼるそうです。
さて、食中毒を起こすサルモネラ属菌は感染すると消化器官内で活動することになるのですが、健康な人の消化器官には元々ほとんどいません。
もし体内に入った場合、食中毒として発症するには、一般的には菌の数が10万個以上必要だとされています。
ということは、食中毒を起こさないためにはサルモネラ菌を増殖させないような環境で保管しなければならないということがわかります。
保存温度と賞味期限
先に述べましたように、健全な鶏が通常の状態で産んだ正常な殻の卵は、強力な防御機能が備わっており細菌類はなかなか侵入や中での増殖ができません。
一方、食中毒を起こすサルモネラ菌の繁殖には硫黄が必要ですが、卵の白身には存在せず、しかし黄身には存在するのです。
ということは、サルモネラ菌が黄身にまで到達すると爆発的に増殖する可能性があるんですね。これには白身との境にある卵黄膜の強度が一つのカギになります。
イギリスのハンフリー博士は、保存する温度と日数について数式化しており、これにより卵黄膜が弱体化してサルモネラ菌が増殖し始める条件がわかるようになりました。
そこから導き出される保存温度と生食できる日数の関係は以下のようになります。適正で安定的な保存温度がいかに大切かよくわかります。
サルモネラ菌の現実の汚染率
生卵がサルモネラ菌に汚染されるケースは2種類があります。
- (オンエッグ)殻が汚染されるケース
- (インエッグ)産み落とされた状態で既に卵内部が汚染されて入るケース
卵を洗浄するのはオンエッグについて有効だからです。ではインエッグについてはどうなのか? そもそも何故インエッグな卵ができるのでしょう?
それはサルモネラ菌が親鶏の卵管や卵巣に寄生して、それが原因で卵細胞にも寄生することがあるからです。特にサルモネラ•エンテリティデイスという菌は僅か数十個でも発症する可能性があると言われており厄介です。
業者が相当慎重に管理していても、こういうことは現実に起こり得ます。
生卵が何らかの理由でサルモネラ菌に汚染されて入る割合は0.03%程度といわれています。極々僅かでもゼロではないんですね。
そして、何度も申し上げてますようにオンエッグの場合、これがヒビなどのない正常な卵であれば、菌は簡単には増えません。
インエッグの場合は、上記ハンフリー博士によると、一個の卵あたりの菌数は多くても20個未満であるそうです。
食中毒を発症するには大体10万個以上のサルモネラ菌がいなければならないとされています。
ですから、これもなんども申し上げますが、例えそういう卵が超稀に混じっていたとしても、保存温度(10℃以下)を誤ったりしない限りは、中毒症状を引き起こすほどにはなかなか増えないのです。
しかし、卵をサルモネラ菌が一番繁殖しやすい37℃近辺状態にしておくと爆発的に増加する可能性があり、これを食べるのは非常に危険です。
生卵を食べてサルモネラ菌中毒で死亡した事例が実際にあります。
最初に戻りますが、パックに表示された賞味期限だけを頭に置くのではなく、サルモネラ菌が増殖しにくい条件を常に忘れないことがとても重要です。
特に幼児や体の弱った高齢者には恐ろしいサルモネラ菌です。しかしサルモネラ菌は熱に弱く、75℃状態をたった1分続ければ(調理する卵の全ての部分)ほぼ死滅します。
ところが、卵料理は熱を通しすぎると食感が悪くなり美味しくなくなるというマイナスの要素もあり悩ましいところですね。
毎日卵を食べる私は、必ず固茹でにして食べるので大丈夫です。あなたはどんな風にして食べておられるのでしょうか。
購入してから注意すること
食中毒について色々と見てきましたが、それを踏まえた上で、おうちでの取り扱いで注意すべきことを申し上げます。
- 卵を洗わない方がいいです
水には雑菌がいるので、それで洗うと不要な雑菌が卵に付着してしまいます。 - 保存温度は安定的に10℃
ですから冷蔵庫のドアポケットのように開閉時に外気温の影響を受けやすい部分に保存するのはよくありません。 - 結露しないようにする
例えば料理するつもりで冷蔵庫から出して結局使わないでまた冷蔵庫に入れたりするのはNGです。結露すると殻の表面についた水滴から雑菌で汚染される可能性があります。 - 匂いがうつりやすい
殻の気室から空気を取り入れて入るため生卵には匂いが移りやすいです。ですから冷蔵庫の中では卵の近くに匂いのするものを置かない方がいいです。 - 殻にヒビがある場合は要注意
生卵が日持ちするのはあくまでも殻に異常がない場合です。もしヒビが入っていたりした場合は、ゆで卵も合わせ、その日のうちに食べてしまいましょう。
(おまけ)栄養価や美味しさについて
殻や黄身の色と栄養価
ぜ〜んぶ違います。嘘です。
殻の色や黄身の色は、鳥の種類や与える餌の種類の影響で出るもので、栄養価や羽の色とは何の関係もありません。
ちなみに、殻の赤茶色の成分は、血液の赤血球中のポルフィリンという色素です。
(おまけ2)有精卵と無精卵の誤解
有精卵はオスとメスが交配してできた卵で無精卵は交配せず産み落とされた卵です。
私たちが食べて入るのは、普通、無精卵です。今まで気にもしませんでしたが、卵って交配しなくても出来るものなんですね。
鶏の交配って??? ちょっとピンとこなかったので、一応YouTubeで確認しました。なんてことはない見慣れた光景でした。ライオンも鶏も同じです^^
さて、消費者にとっては断然無精卵が都合いいのです。なぜでしょう?
それは・・・
- 日持ちがする
これが一番ですね。日持ちする理由は、交配していないので細胞が分裂しないのです。 - 美味しさが変わりにくい
有精卵は細胞分裂し始めると元々ある栄養素が使われて且つ老廃物ができてきて美味しく無くなります。無精卵にはそれがありません。 - 安い
有精卵は高いですね。これはコストがかかるからです。何故なら、、オスを飼う必要があり、一定の広い場所が必要であり、卵を自動採取できません。
なるほど、でも有精卵の方が栄養価が高くて美味しいのでは?
いいえ、違います。成分については有精卵も無精卵もほとんど同じです。それから「美味しい」と感じる理由は思い込みもあります。
身動きもままならないケージの中より広い野外で育った鶏の卵で、しかも条件が整えばひよこに変わる生命力の卵の方が美味しいに決まってる。という思い込みですね。
そうではなく味の決め手は鶏に与える餌が一番大きな要因です。ですから、全国の養鶏業者は美味しくて栄養価に富んだ卵になる餌の研究を熱心にして入るのです。
まとめ
生卵のパックをたくさん冷蔵庫に保管していて、賞味期限について心配になった私ですが、調べてみると・・・
- 健康な鶏が産んだ
- 傷などがない正常な状態
そういう生卵はそう簡単には腐らないことが、その理由とともに理解できました。それとともに、そういう卵であっても、ごく稀にサルモネラ感染して入る卵もあることを知りました。
そして、サルモネラ菌が増殖しにくい温度は
10℃以下
最も増殖しやすい温度は
37℃近辺
であることも学びました。ここから購入した卵を安心して保存するためには、常に10℃以下にしておくことが大切でしたね。
また、サルモネラ菌は熱に弱く75℃以上で1分以上加熱すれば、ほぼ安心して食べられるのでした。
成人が食中毒を起こしても腹痛ぐらいで済むところが、幼児や高齢者では生命の危機を招くこともあるので、誰が食べるのかによっても気の使い方は変える方がいいでしょうね。
海外では、鶏卵は、そもそも加熱調理して食べるのが当たり前であり、十分加熱すればまず食中毒の危険がなくなるので、何ヶ月も前の卵でも結構平気で食べるそうです。
ということで、固茹で卵にして食べるのであれば1ヶ月くらい冷蔵保存したものでも全然平気、というのが私の結論です。