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生命保険の本質は掛け捨て
ここを勘違いしている人が非常に多いです。生命保険とは契約上の事態が発生すれば支払保険料に比べて大きな金額が受け取れるけれど、病気とか事故とか、契約期間中に特に何も起こらなければお金は1円も返ってきません。
これが保険の大原則です。
何も起こらなければお金は戻らないのが保険です。そもそも入院や手術する人に、保険会社はどこからお金を持ってきてわたすのでしょう?
病人には保険金を渡し、何もなければ契約者に返戻金を渡して、もしそんなことをしたら、それは事業として成り立つのでしょうか?
というわけで「返戻金が発生する保険契約」の項までは生命保険ほ基本である掛け捨て保険の話です。
保険はオプション取引と同じ
相場の世界では「オプション取引」という取引があります。日本で個人が唯一参加できるのが「日経225オプション取引」です。
細かいことを全部ぶっ飛ばして説明しますと、
例えば日経平均が18,000円の時に権利行使価格19,000円のコールオプションを5円(支払金額は5,000円)で買い、満期日まで持っていて当日の日経平均確定価格が19,500円だったとすると購入者は
(19,500円-19,000円)✕1,000=500,000円から購入金額5,000円を引いた495,000円が受取金額、つまり儲けです。
一方、あてが外れて満期日の確定価格が19,000円以下だと受け取りは0円で、購入金額の5,000円を損したことになります。
まさに保険の本質がここにあります。
そして、支払った保険金は帰ってきません。
保険金を受け取れる場合とは
- 病気 通院や入院や手術
- 病気 在宅療養
- 死亡
基本的には上記のいづれかに該当する場合です。1〜3はそれぞれ別契約であって、もし一緒になっているように見えたら、それは別契約を同時に合わせて締結しているか、どれかを主契約として他を付加契約にしているのです。
契約期間中に1〜3のいづれにも該当しなければ、お金は1円も戻ってきません。理由は上に述べました。
保険契約の基本は相互扶助なので、契約者のなかで誰か困った人を契約者全員が助けると考えてもいいです。
契約期間
一般的に、生命保険には契約期間が存在します。そして、開始年齢・契約期間と保険料の関係は下のようになります。
- 契約時の年齢
若年→だんだん支払保険料が高くなる→高齢 - 契約期間
短期→だんだん支払保険料が高くなる→長期
支払保険料の額は病気になる確率や死亡する確率で決まるわけですから、保険料が高くなることイコール、病気になりやすくなる或いは死亡確率が上がる事を意味します。
びっくりする前に、それだけ病気や死亡の確率が上がったんだと理解しましょう。
10年で契約更新して契約更新後の掛金が跳ね上がるのなら、若い保険料の安い時に長期契約する案はどうだろうか? という考え方もでてくるでしょう。
もう少し別の観点からも考えてみましょう。
病気になる確率と支払保険料
保険会社は若いうちから契約すると安くて済むから早く契約しましょうと言います。安いのは事実です。でも安直に契約するのがいいのでしょうか。
例えば、0歳の男性が
30歳までにガンと診断される確率は0.5%です。
50歳までにガンと診断される確率は2%です。
(今30歳でガンと診断されてなければ50歳までにガンと診断される確率は1.5%です)
例えば、男性が
30歳までに癌で死亡する確率は0.2%です。
50歳までに癌で死亡する確率は0.6%です。
つまり、確率上、98%の人が50歳まで癌とは無縁の生活を送れるわけです。ということは保険会社は98%の人には支払いが発生しないので、掛け金保険料は安いわけです。
一方、0歳の男性が
70歳までにガンと診断される確率は21%です。
80歳までにガンと診断される確率は実に40%になります。
因みに、A社の同一商品の年齢別支払保険料は、契約開始年齢別に表すと下記のようになり、どこから始めても生涯同一金額です。
20歳 2,220円
30歳 2,990円
40歳 4,310円
50歳 6,430円
60歳 9,580円
70歳 13,410円
これを見てどのように感じるでしょうか。やっぱり早く契約して何十年も払うのがいいですか?
死亡保険と医療保険
生命保険は多種多様でわけがわからないほど多くの商品がありますが、掛け捨て型の保険を大きく分けると
- 死亡保険
- 医療保険
この2種類になります。
死亡保険
死亡保険はその名の通り契約期間中に死んだら死亡保険金を受け取れます。その受け取り方は
- 一時金として
- 分割支払金として
の2通りです。
掛け捨て死亡保険は終身契約タイプはありません。契約期間があるタイプ(定期保険)のみです。もし終身契約があれば、それは全ての契約者が必ず全員保険金を受け取りるという事になるので、商品として成り立たないのでしょうか。
医療保険
一方、医療保険はケガや病気の治療・通院・入院・手術など契約に盛られている事態にあった場合に、約款規定の範囲内で保険金が支払われます。
死亡保険とは違い医療保険は生涯保険料を払い続ける終身タイプもあります。この医療保険を契約したい方の悩みどころは
10年とか20年という長期の契約で一生懸命支払っても、病気に無縁なら1円も返ってこないし、更に再契約すると確実に支払保険料があがります。
しかし、ほとんど保険金支払いを当てにするような病気とは無縁の若い時から終身で延々と掛け続けるのが良いのか・・・?
もう一つ、この医療保険を契約するなら最も気をつけなければならない点は、支払いされないケースを理解しておくことです。いざ申請して「該当しない」とハネられたら目もあてられませんからね。
保険会社のサイトを見ても美辞麗句ばかりで、あまり都合の良くないことは虫眼鏡が必要な約款にしか書かれていません。
しかし契約前に聞くことは可能です。もし契約をするのであれば納得行くまで質問してください。
返戻金が発生する保険契約
さてこれまで、生命保険契約は掛け捨てだと申し上げてきましたが、実際には返戻金を受け取られることもありますね。これはどういうことなのか?
はい、返戻金のある生命保険契約では、毎月支払う保険料の全てが本来の生命保険料に充当されてはいないのです。
具体的に言うと満期返戻金や解約返戻金がある場合は
支払保険料=本来の生命保険料+保険会社の手数料(付加保険料)+積立金
こうなっています。
病気や死亡とは無縁でもお金が返戻金として戻ってくるわけは、その積立金にあります。つまり、掛け捨て保険にプラス積立金を余分に払っているので、これが返戻金の原資になっているのです。
もう一つ、こちらの死亡保険は掛け捨てタイプとは違って終身契約型があります。終身型があるということは、必ず積立部分があって死亡保険金の支払いが確定していることを意味します。
しかし、もしこちらの返戻金のあるほうが得だと思っているのであれば、それはかなり大きな勘違いです。単に積立金部分を余計に多く支払っているだけの話です。
付加契約の罠
生命保険は「特約」と称するオプションをたくさん用意しています。本来主契約に盛り込んで欲しいような内容がオプションになっていたりします。
特約をあれもこれもすすめられて「手厚い補償がそろった素晴らしい保険契約」みたいな事を言われるかもしれません。
最初にその商品の説明を見た時は、支払い可能な安い生命保険だと考えていたのが、言われるままに特約をつけていったら、結局保険料が非常に大きくなってしまって支払いに汲々とするはめに陥ったりする可能性があります。
また、死亡保険契約の終身払いに医療特約をつけたはいいが、何かの事情で支払えなくなって解約したら、残したい医療保険も解約になります。
再度医療保険だけを契約したら
- 年齢が上がっている分保険料が上がる
- 保険料をあげなければ、以前の契約より保障内容が落ちる
であれば医療保険を特約などにせず、最初から独立した一本の契約にしておけばよかったという事になります。
手数料(付加保険料)というブラックボックス
上の「返戻金が発生する保険契約」の項で説明しましたが、あなたが支払う保険料の中には「付加保険料」という名の手数料が含まれています。
純粋な本来の保険料は統計データからその金額を割り出されるので、各社であまり違いがないのですが、問題は付加保険料(←この名前はどう考えてもおかしい)です。
付加保険料=事務所維持費+人件費+事務費+水光熱費などなど
支払保険料に経費(付加保険料)が乗るのは当然だとしても、それの開示義務がないためにブラックボックス化している点が問題です。
その結果どうなるのか?
もしあなたが保険販売店なら保険会社が手数料を沢山くれる保険商品の方を熱心に売ろうとしませんか?
手数料はブラックボックスの中で顧客にはわからないのだから。口では「中立な立場で各社商品を販売してます」と言っておけばいいのです。
このブラックボックスを透明化したのは数ある保険会社の中でたった一社のみです。おそらく強制力が発動されないかぎり他社は透明化しないです。
契約締結上の納得できる要件が揃わないのはいづれにしても問題です。法律が変わることを期待しないとしょうがないです。
予定利率と銀行金利の違い及び中途解約のリスク
生命保険契約には必ず予定利率というものが存在します。これは保険会社が保険金支払いのための責任準備金を運用する利率で、契約時に確定し基本的には変わることがありません。
掛け捨て保険にも予定利率は存在します。これが高いと支払保険料が安くなります。低いと支払保険料は高くなります。
次に、返戻金があるケースの計算説明をします。理解しやすいように保険料は一括支払いとします。
- 一括支払保険料 300万円
- 予定利率 1.5%
- 10年満期
だとしますと、十年後の受取額は
運用益=300万円✕1.5%✕10年=45万円
つまり最初に支払った300万円と合わせ345万円になると思いますか?
実は違います。「返戻金が発生する保険契約」の項で支払保険料の内訳は
支払保険料=本来の生命保険料+手数料(付加保険料)+積立金
であると説明しました。この内、本来の生命保険料+手数料は払いっぱなしなので、実際運用されるのは「積立金」の部分です。それが例えば270万円であれば、10年後の受取金は
運用益=270万円✕1.5%✕10年=40.5万円
満期返戻金=270万円+40.5万円=310.5万円となります。
300万円の払込をして310.5万円帰ってくる。これを銀行式の金利に当てはめて考えなおすと
40.5万円÷10年÷300万円=1.35%
つまり最初に預けた300万円を予定利率1.5%ではなく年利1.35%で10年運用したことと同じになります。
これは単利計算で、もし一年後に発生した利息を元金に乗せて運用し続けたら(複利運用)、10年後の運用益は約43万円で受取額は343万円にもなるのです。
しかも既述ですが再度注意を喚起しますと、中途解約すると返戻金は最初に預けた払込金額300万円を割ったり、割らなくても運用益が、単純な手計算よりも遥かに少なくなる可能性が大きいです。
単純に元金✕年利✕年数とはならないので、よくよく覚えておいてください。しかも、当然ですが解約した時点で保険としての保障もなくなってしまいます。
それなら、最初から死亡保険にせよ医療保険にせよ、保険は保険、貯蓄は貯蓄と別々にしておくほうがよいと思いませんか?
生命保険の選び方
生命保険というあなたにとって非常に身近な商品を様々な角度から見てきました。認識が変わりましたか。もっと前向きに調べてみようという気になりましたか。
どちらにしてもあなたの人生。積極的に関心を持っていただけたのでしたら幸いです。
さて、理想の保険契約とはどんなものか? 明らかな知識不足や誤解がなければ、結局それはあなたのリスク管理の感覚に基づく事になるのでしょうか。
最後に、私が考える理想の保険契約を申し上げます。
保険と貯蓄は別
何でも保険契約に入れようとするのは無理があり不都合が発生します。従って貯蓄は保険会社とは別のところでします。
(貯蓄に関する記事⇒初心者の個人投資家に贈る運用の心得)
理由
- 保険会社の貯蓄運用手数料が高い。
- 銀行式の利率で考えると運用利回りが低すぎる。
- 中途解約すると利回りが極端に下がり、職を失うなど突発的な事故発生時に役に立たない。
- 保険会社の契約は貯蓄部分が死亡保険か医療保険と同体になっているので、貯蓄部分だけを解約することが出来ない。解約すると保険部分も強制的に解約となる。
生命保険は必要なときに必要な物だけを
本契約と呼ばれるものに勧められるままあれもこれも付帯契約をつけた太った形がよいとは思いません。
生命保険は自分や家族が生活し続けていくうえでの継続的な経費・コストです。収入や他の支出とのバランスを崩して払い続けられるものではありません。
状況にもよりますが、できるだけ自分で積立運用して少しでも金銭面の足腰を強くします。
死亡保険
以上を理解の上、もし家族がいるならば必要だと考える生命保険の1つが死亡保険の中の「収入保障保険」と呼ばれているものです。
家庭の支出スケジュールを考えてみると、子供の幼少期から成人するまでが(住居も購入すれば尚の事)非常に経済的負担がおおきいですよね。
この間限定で契約しておいて、もし主人が死亡してしまったら年金式に保険金を受けようという仕組みです。
保険料支払いと保険金受取の方法は柔軟性のある場合が多く、それぞれの事情に合わせれば良いと思います。一時払いの死亡保険より保険料も安いです。
一番お金が必要なときに夫が死亡して家族が取り残されたら相当えらい事になるので、「収入保障保険」は一考の余地があると思います。
医療保険
基本、契約はしません。
- この病気になったら入院費も入れて200万円かかります!
- あの病気になったら入院費も入れて300万円かかります!!
よく保険会社のHPにデカデカと書かれているじゃないですか。まあ嘘じゃないですよね。それで「これはいけない」と思わせる狙いがあるのでしょうが、そんなに焦って考え悩むことですか?
日本の健康保険制度が最高
思い出してください、日本は世界に冠たる健康保険制度があるのですよ。だからそもそもが3割負担で済むんですよ。
しかも健康保険制度の仕組みの中に「高額療養費制度」があるので、ちゃんと申請すれば1ケ月の医療費支払いは8万数千円を超えることがないのです。
更に、社会保険では傷病が原因で給料が出ない場合、最大給料の2/3が18ケ月に亘って保証される「傷病手当金」という制度もあるのですよ。
これだけ手厚く公的制度で守られているんですよあなたも私も。
医療保険を考慮する余地
ただし、健康保険の適用が受けられない差額ベッド代とか入院食事代などもあるし、確率的には殆ど無くても、極稀に入院の長期化や通院治療の長期化など負担増加要因の発生するケースもあります。
しかも残念なことに国民健康保険には「傷病手当金」という収入補償制度がないのです。従って個人で八百屋さんをやっている人やフリーのデザイナーなどは、この点辛いところです。
こういったケースでは貯蓄が少ない間は、少額保険料の医療保険に入る余地はあると思います。
しかしそれでも、生命保険契約は必ず助けてくれる魔法の杖ではありません。どんなに長期間かけていても、いざ申請して却下されたら終わりです。保険金が下りないケースをたくさん用意しているのです、保険契約というものは。
しつこいですが、だからあなたを守る貯蓄の大切さをわかってください。
(貯蓄に関する記事⇒初心者の個人投資家に贈る運用の心得)
最後に
私は「生命保険は不要だ」とは一言も申し上げていません。貯蓄の大切さを自覚して実行して、その上で生命保険を契約する場合は、よくよく理解して上手に契約しましょうと言いたいのです。
いざという時に泣かないでいいようにしてくださいね。そのためにこの記事が少しでも役立ったなら嬉しいです。
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