相続法改正 概要は? いつから?【配偶者と介護者に配慮】

相続税改正

相続法が実態を鑑み大きく変わった

相続法は1980年に改正されて以来、世の中が大きく変動しているのに、ず〜っと変化なしの状態でした。

その結果、多くの課題と解決困難な事案に直面してきたんですね。

これらを受けて去年2018年7月、実に40年ぶりに大きく見直しがなされ、その結果、かなり現実社会にふさわしい大改正が行われました。

 

では、何が変わったのでしょうか? 概要は以下の通りです。

  • 残された配偶者が安心して今までの家に住める上に、それが故の相続現金預金の減額がなきよう配慮された
  • 自筆遺言証書の一部でパソコン利用が可能になった
  • 自筆遺言証書が安全に保管できるようになった
  • 被相続人の看病・介護に貢献した人は相続人でない親族でも金銭要求ができるようになった
  • 遺産分割前でも被相続人の預貯金の一部が払出可能になった

主だったところは以上ですが、これが従前と比較して如何に変わったかを、わかりやすく詳しく解説してゆきます。

 

亡くなった方の財産を相続するって、別に法律によらなくてもいいんですね。そう、残された相続人が話し合って決めればいいだけのことです。

ところが・・・そんなことをすれば逆に、何も決まらない、いがみ合いが延々続くことになる、というのが多くの現実です。

相続争い

前日まで、仲が良くてみなさん善人だった。そういう人たちが揉め倒すんですね、別人になったみたいに。それが相続です。

銀行員時代に何回か経験しています。それはそれは、すごいものです。おまけに、直接的には関係のない伴侶が口を挟んだりするから、余計にぐちゃぐちゃになってしまいます。

 

というわけで、相続法の大切さは必然性があるわけで、残された人たちの不都合や不公平の解決をどう実現するかは極めて切実であります。

そういう意味では、今般の改正は相当評価できると思いますが、以下の解説をお読みになってあなたはどう判断されるでしょうか?

 

 

配偶者の住む場所とお金に配慮

 

相続と家

残された配偶者が、長年住み慣れた家に、これからも安心して無償で住み続けられるように、という配慮で新しく創設された権利を「配偶者居住権」と言います。

これは、自宅の権利を・・・

  • 負担付き所有権
  • 配偶者居住権

の二つに分けて、相続時に・・・

  • 配偶者配偶者居住権を相続する
  • その他の相続人負担付き所有権を相続する

ようにしたものです。

 

それ以外の特徴

  • 配偶者は自宅を収益用途利用も可能で、例えば民泊に活用したりもできる
  • 負担付き所有者に「配偶者居住権」の設定登記を請求できる
  • 配偶者居住権の登記をしていれば、これをもって第三者に対抗できる(だから登記しておいたほうがいい)
  • 配偶者居住権という権利は、人に売ったり貸したりすることができない(その分評価を低く抑えられるところがミソ)
  • 配偶者居住権は一身専属で配偶者の死亡と同時に自動的に消滅する

 

具体的な例

法務省の説明例に沿って具体的に説明しますが、前提は以下の通りです。

遺産

  • 自宅:2,000万円
  • 預貯金:3,000万円

 

相続人

  • 配偶者
  • 子一人

この場合、相続財産の合計は2,000万円+3,000万円=5,000万円です。又、配偶者と子の相続割合は、1:1 です。

 

以上をもとに説明を進めますと・・・

現行法の場合

配偶者が今までと同様に住み続けるために家を相続すると・・・

自宅2,000万円+預貯金500万円(=全相続額の1/2)

を相続することになります。

しかしこれでは、住むところは今まで通りで満足でも、相続する預貯金が500万円と少ないため、今後の生活に不安が残ります

 

改正法の場合

配偶者は今までと同様に住み続けるために新たに創設された配偶者居住権を相続します。すると・・・

自宅の配偶者居住権1,000万円+預貯金1,500万円

の相続となり、居宅を確保できた上に預貯金もより多く取得できるようになり、残された配偶者により配慮された改正であるということです。

なお、自宅の価値は2,000万円でしたが、配偶者居住権1,000万円を引いた残りは1,000万となり、この権利を負担付き所有権と言うのでしたね。

 

負担付き所有権

負担付き所有権とは居住権のない所有権です。居住権は配偶者居住権の方にあるのでしたね。

非常に不自由な所有権で、法的に売ることは可能なのですが、実際問題として、別人の居住権が付いている不動産などを買う人はいないでしょう。

また、配偶者が死亡すると配偶者居住権は自動消滅するので、その時は、所有権の価値も上がることになりますね

ただしその際、所有権保有者に対する課税がどうなるかは、まだ明確になっていないようです。

配偶者居住権と負担付所有権の計算根拠

上記説明のように・・・

自宅の価値=配偶者居住権の価値+負担付き所有権の価値

でしたね。つまり、負担付き所有権の価値が計算できれば、配偶者居住権の価値も計算できます。

で、法務省の説明によりますと、負担付き所有権の価値は、建物の耐用年数・築年数、法定利率その他を考慮したものとなっています

でも流石にこれではよくわからないので「税についての相談窓口」で質問しました。

その結果、「まだ通達が回ってきてないので具体的な計算根拠はわからない」のだそうです(・´ω`・)

※参考 »(法務局)配偶者の居住権を長期的に保護するための方策

 

 

 

配偶者短期居住権

配偶者居住権と似た名称ですが、意味合いは全然違います。

これは、遺産分割協議が終了するまで、或いは、自宅を配偶者以外の人に遺贈すると遺言があっても配偶者がしばらくの間建物を無償で使用できる権利です

一般的に、配偶者は被相続人と自宅に一緒に住んでいるでしょうから、その場合は当然に認められる権利なのです。

 

でも、今までは分割協議が終了するまで住み続けられるという居住権が、必ずしも保護されているとは言えませんでした。

なので、今回の改定は大きな意味があるのです。

 

もっとも多いケースは、配偶者と共同相続人が分割協議する場合で・・・

  • 協議により自宅を誰が相続するかが確定した日
  • 相続開始から6ヶ月を経過した日

このどちらか遅い日まで配偶者短期居住権が認められています。

また、この権利は財産権ではないので、これをもって配偶者が得る他の財産が減ることはありません

 

 

自筆証書遺言の方式を一部緩和

自筆の遺言は、その名称通り全て自筆であることが要件となっています。

ところが、不動産や預貯金の数・種類が多かったり、被相続人が高齢だったりすると、これらの明細を間違いなく遺言書に記載するのはなかなか大変です。

実際、ケアレスミスも多いそうです。その結果、せっかくの遺言が有効に利用できないこともあります。

 

そこで今回の改正となったわけですが、明細を「財産目録」として別添する場合に限り、それについては自書しなくてもよくなりました。

目録を自書する代わりに・・・

  1. パソコンで作成する
  2. 不動産の登記簿謄本のコピーを利用する
  3. 預貯金通帳のコピーを利用する
  4. 他人に代筆してもらう

これら全部が可能になり、財産の多い被相続人はずいぶん楽になりました。

ただし、目録を構成する全てのページに署名と捺印が必要です

かえってトラブル要因に?

遺言状は、相続人の誰もが疑わないから効力を発揮できるわけで、それが元でトラブっては意味がないわけです。

では、今回の改正で何かまずい事でも?

  1. 遺言書を一体化する義務がない:紐で括ったり製本したりホッチキスでとめたりが要件ではない→相続開始前に遺言状が見つかっても、それが全てなのか、誰かがある部分を抜き取ったのか等が確定しない
  2. 遺言書の全てに契印を押す義務がない→上記と同じ理由でトラブル化する可能性あり
  3. 遺言書に使う印鑑は実印である必要がなく、複数箇所押印するのに同一印である必要もない(シャチハタはダメ)→遺言書が偽造であるかないかで揉める可能性あり

ということなのですよ。

それにそもそも、遺言状を自宅保管していては、見つけた人が破棄してしまう可能性もあります。

「自分に不利ことはなくしてしまえ」みたいにヽ(´Д゚困)

 

そこで、こういった問題から紛争を防ぐために考え出されたのが次に説明する「遺言状の保管」に付いてです。

 

 

自筆遺言書が法務局で保管可能に

というわけで、法務局では自筆遺言書を保管する制度が新たに創設されました。

この制度を利用すると・・・

  1. 裁判所の検認が不要になる
  2. 相続人・受遺者は全国のどこの遺言書保管所(法務局)においても、保管されているかどうかを調べることができる(遺言書保管事実証明書)
  3. 実際に保管している遺言書保管所で遺言書の閲覧ができる
  4. 遺言書の写しの交付を請求できる(遺言書情報証明書)
  5. 遺言書の閲覧や写しの交付請求があると、遺言書保管官はその他の相続人などに保管の事実を通知する

以上ですが、これは法務局グッジョブでしょ。いい制度作ったなって思います。手数料などについてはまだ決まっていないようです。

ただし、法務局へは本人が直接出向いて手続きをすることが必要です。

いずれにしましても、相続に関してはとにかく揉める要因を潰すことが大切であり、この観点から、今回の創設は意味深いと考えます。

 

 

 

被相続人を看病・介護した親族も金銭要求可能に

介護

非常に良くあるケースですが、例えば、長男(相続人)の嫁が長男の父(被相続人)の看病や介護を無償で献身的におこなったのに、相続人でないばっかりに、遺産の分配を全く受けられないって話。

長男も他の兄弟も全く知らん顔だったのに、相続になった途端厚顔無恥丸出し。自分のことばっかりで、長男の嫁については眼中になしみたいな情景。

今までよくあった話です。このような不公平を是正しようというのが改正の趣旨です。

 

上記のような場合、相続権のない親族も相続人に対し金銭の要求ができるようになりました。(相続ができるということではない)

ただし、ちょっとややこしいのですが、「特別の寄与をした場合」という条件がつくんですね。

  • 特別の寄与:無償で看病や介護を行うことにより、被相続人の財産の維持や増加について寄与をすること。

 

したがって、面倒を見ていた人が、そのことに対する金銭の受け取りがあったりした場合はダメなので、難しい側面はあります。

しかし、だからといって権利を放棄する必要はありません。苦労して看病・介護をした方は金銭もさることながら、相続人にそれを認めてもらう(認めさせる)事を強く望むでしょう。

きちっと証拠を残しておくことが何より大切です。

  • 金銭関係も含めた詳しい看病日記をつけておく
  • 看病・介護に要した支出を証明する領収書などは全て整理しておく

 

 

遺産分割前に被相続人名義の預貯金の一部が払戻が可能に

銀行

被相続人が残した財産は、分割協議で各相続人の取り分が決まるまでは共有財産です。

それは被相続人名義の預貯金とて同じことで、共有財産である以上、分割協議が終了するまでは理由の如何を問わず引き出しはできないのです。

 

ところがそれでは現実に困る問題が出てきます。例えば・・・

  1. 相続人には葬式代がない
  2. 被相続人の借入金の弁済ができない

などなど。

 

もし、それらの支払い目的で分割協議終了前に被相続人の預貯金が使えれば、簡単に問題は解決するでしょう。

そこで、法制が変わり「預貯金の仮払い制度」が新たに創設されたのです。仮払いには二つの方法ががあります。

 

家庭裁判所の判断による

家裁に遺産分割審判或いは調停を申し立てた場合、申し出があれば、家裁の判断で一定範囲の仮払いが認められます。

 

相続人各位が直接金融機関で払い戻しを受けることができる

その際、払い戻しを受けられる金額は・・・

  1. 相続される預貯金×1/3×仮払いを受ける相続人の法定相続分
  2. 1.の上限は金融機関ごとに150万円

 

「仮払い制度」の問題点

この制度ができた理由は、被相続人が亡くなった直後、残された相続人がお金の必要性に迫られて困るといった事態を解決するためです。

しかし、どう考えても新制度で迅速に現金化できるとは思えません。

 

「仮払い」を受けたから特定の相続人が得するわけではありません。分割が完全に終わった時点で眺めれば、仮払いに関係なく、計算通りに分配は終了するわけです。

なのに、相続人の誰かが建て替えをしないで仮払いを請求するのは、つまり、みんなお金がないのに何らかの支払いを急かされているケースが多いからと考えられます。

 

しかし、家裁は費用がかかるし、いかにも悠長でしょ。一方、銀行直接は迅速という観点に立てば、やはり難しい気がします。

なぜなら、銀行には「善管注意義務」という絶対的注意義務が課せられてますし、相続人の一人が来店したとて「ホイホイ」と支払いに応じるとは思えません。

最低、相続人全員の確定と全員の意思確認はすると思います。そうなると、謄本やら所定の書式に全員の署名捺印そして全員の印鑑証明が必要です。

こういった手続きをきちんとしないと、後日別の相続人から「私は払い出しに同意していない」とか言われた折には二重払いを強いられる可能性も出てくるのです。

 

以上のような理由から、「仮払い制度」の新規創設をもってその意図するところが実現できるとは考えにくく、今のところグッジョブとは言えないというのが私の感想です。

また一方、現行法の元でも「葬儀業者に直接振り込む」などの限定条件付きであれば、分割協議終了前でも一部払い出しに応じる金融機関はそこそこありますよ。

 

 

遺留分制度の見直し

この見直しの目的としてわかりやすいのが「会社の継承」ケースです。

被相続人は長男に事業を引き継いでもらったので、遺言書にて「会社の土地建物を長男に相続させる」と記しました。

ところが、土地建物の評価があまりにも高く、もう一人の相続人である次女がその他相続財産を全部受けても差が大きいため、不満がいっぱい。

 

本来相続できる権利分の1/2が法律で保証されています(遺留分)。いくら遺言とは言えこれを侵した場合、対象の相続人はその分については請求することができます。

これを遺留分減殺請求権といいます。

 

さて上記の例についてみると、現行法では遺留分減殺請求権を行使されると、会社の土地建物が共有になってしまい、次女から持分の処分を言い渡されたりすると、事業継承に大きな悪影響が出てしまいます。

これは被相続人の会社の持ち株に関しても同様で、事業継承する長男に集中したいところが、現法では、次女の申し出で分散してしまったりする可能性があります。

そうすると、経営才覚のない次女が経営に口を出したりして非常に悪影響が出たりします。このケースは私も銀行員時代に経験しています。

 

そこで今回の改正では・・・

  1. 遺留分減殺請求をする相続人は相当額の金銭を請求することができる
  2. その金銭を直ちに用意できない場合は裁判所に申し立て支払い期限の猶予を求めることができる

となったのです。

これで・・・

  1. 事業継承が行いやすくなる
  2. 遺言者の意思を尊重することができるようになる

といったメリットが期待できるのです。

 

 

まとめ

円満相続

今回説明しました内容は、先に作成した別記事を合わせ読むことで一層理解が深まると思いますので、そちらもご一読ください。

 

今回の法改正は40年ぶりというだけあって、かなり踏み込んだ良い改正であったと思いますがいかがですか?

 

  • 残された配偶者に配慮している
  • 被相続人を看病・介護した人に配慮している

この二つは特に大きな意味があります。あるべき姿に近づいてきたのかなって、非常に前向きな感想です。

 

加えて、相続の大きな揉め事要因であった遺言書の真偽についても、そうならないような配慮がなされましたね。

  • 自筆遺言書で誤記しやすい目録作成にパソコンの使用が可能に
  • 自筆遺言書が法務局で保管可能に

 

今後ますます老齢化が進み、かつ、平均寿命が延びる状況下、相続人たちも高齢者になっている場合が増えてくるでしょう。

そういう社会変化を見据えての今回の相続法改正はなかなか評価できるものではないでしょうか。

 

最後に、法律の施行時期についてお知らせしておきます。これがバラバラで、事情はあるのでしょうが「一括施行しろよ」と個人的には思います。

  1. 自筆証書遺言の方式を緩和する方策・・2019113
  2. 遺産分割前の預貯金の払い戻し制度・遺留分制度の見直し・相続の効力などに関する見直し・特別の寄与等の一部以外の規定・・201971
  3. 配偶者住居権及び配偶者短期居住権の新設等・・202041
  4. 遺言書保管法の施行期日・・2020年7月10日