奇美博物館とは
元々奇美博物館は、一代で財をなした台湾を代表する企業経営者許文龍さんが、個人の趣味で集めたものを展示している場所です。美術品も多く「博物館」とはいうものの半分は美術館です。
展示されているコレクションは非常にユニークです。西洋彫刻・絵画、兵器や武具、動物剥製、楽器、それに様々なアンティーク室内品コレクションなど。収集分野が独特でしょ。とともに、こうした収集品は世界的にも有名です。
さて、奇美博物館は当初1992年会社敷地内に開設されたのですが、2015年の1月に台南都会公園に改めて新築オープンされました。
それ以来ず〜っと「一度行ってみたい」と思っていたのですが、念願叶ってこの度訪問することができたので、その報告をしてみたいと思います。
少しの予備知識は持っていましたが、行ってみてあまりの広さにびっくりしてしまいました。博物館内はもちろんですが、この広大な庭にも見所はたくさんあるのです。
たくさん歩くことを想定すれば訪問の時期は秋から春までがいいでしょう。まともに太陽が顔を出すと、たとえ冬でも外では結構厳しいですからね。
台湾では完全予約制にせざるをえないほどのもの凄い人気なのですが、どういうわけか日本ではあまり知名度がなく訪問者もまだまだなようです。台北から離れているからかもしれませんが・・
これを機会に一人でも二人でも訪問する人が増えればいいな、と思います。それだけの価値は十分すぎるほどあります。
許文龍氏とは
許氏は日本統治時代の1928年に台南市に生まれました。ABS樹脂を生産する奇美実業を26歳の時に立ち上げ、やがて世界一にまでした台湾屈指の大実業家です。
幼少期は非常な貧困環境にあったにもかかわらず、学生時代にはもう芸術に目覚めていたそうです。
許氏の芸術に対する造詣は大変深く、芸術品を収集するだけではなく、自らも絵画や彫刻作品を制作しており、またバイオリンを演奏することでも知られています。
そういた氏の関心は、つまりそのまま奇美博物館の方向性を作っているのですね。
さて、芸術家としての側面を持つ許氏は、日本統治時代に台湾で活躍した日本人の胸像を沢山作らせ、或いは自らも制作しています。
そうして制作された胸像は台湾のゆかりの地に一体、そして本人の故郷にもう一体と寄贈されているのです。
そんな許氏の信念は「台湾統治をした日本の歴史を公平に見る」というもので一貫しています。
日本統治時代は台湾人にとっていい時代ではなかったと明言しながら、一方では日本人が悪行ばかりを尽くしていたわけではないとも仰っています。
能力ある多くの日本人が台湾で力を発揮してくれたからこそ今日の台湾がある。今の日本は、悪いことばかりをしてきたと勝手に思い込み歴史から目を背けている。
日本人にも台湾人にも歴史的事実を知ってほしい、日本人はもっと自信を持っていいと仰っています。
日本統治時代を生き抜き信念を形成されているのでしょう。その信念を持って胸像を制作するという活動を続けておられるのでしょう。
更に2013年には、日台経済関係の強化や交流促進、日本企業の国際化に貢献したということで旭日中綬章を受賞されています。それ以外にも東日本大震災発生時の多額の義援金や復興支援にご尽力をいただいています。
広大な庭園
奇美博物館の人気は凄くて、ウェブサイトからの完全予約制で時間当たりの入場者制限をしています。そのため、行く場合は予めウェブサイトで予約して、最後のページを印刷して持って行かなければなりません。
台湾鉄道の台南駅から高雄側へ1駅目の保安駅で下車、徒歩15分くらいです。台南に戻るように北向きに歩いて行くと、敷地東側にある広大な駐車場に出ます。
南北に細長い駐車場の中ほどに入り口というか進入路はありますが、実はここは真裏に位置します。正面は反対側です。
正面までは遠いですが一見の価値はあるので是非行きたいです。そういう意味ではバスで来る方がいいのかもしれませんね。
真正面正門にはテセウスとケンタウロスの戦いの像がで〜んとあります。
そこから博物館アベニューを歩いて行くとアポロン噴水広場に突き当たり、その後ろのオリンポス橋を渡ってミューズ広場を過ぎると、やっと博物館の入り口に到着します。
オリンポス橋の下には大きなミューズ湖が広がっており北口の方にはキューピッド橋が架かっています。また水周りにはアヒルや野鳥もいて可愛いです。
さて、アポロン広場まで戻って右側に進んで行くと子供遊技場広場の島があります。逆に左に行くと、「夜明けを迎える歩道」と「虎山歩道」という二本の歩道が博物館アベニューとほぼ平行に敷かれています。
更に「虎山歩道」の北側には「恋歌の展望デッキ」という木組み風の大きなブリッジがあって、展望デッキまで登ると博物館がよく見えます。
その他にも湖沿いに名前のない洒落た小径なんかもあります。
この広大な庭園を身を以て感じようと、ジグザグと全走破しました。よくぞここまで作り上げたという感激はありましたが、あまりにも広すぎて博物館に入る前にバテてしまいました^^
奇美博物館内部
正面を入って右側が受付なので、ネット予約の際プリントした紙をここで渡し、身分証明書(パスポート)を提示します。予約時に決められた受付時刻ですが、なんせ庭が広いのでゆとりを持ってきた方が慌てなくていいです。
受付と反対、左側にはサービスカウンターがあります。日本語はダメですが、どうしてもという場合は通訳さんが来てくれます。
コインロッカーもあるので荷物はここに入れておくといいでしょう(10元は後で戻ります)。そのさらに左にはギフトショップがありその奥にカフェもあります。
さて、前方に歩いて改札を通過するといよいよ博物館です。写真撮影は全面禁止です。ここに掲載している内部写真は博物館のご好意によりお借りしているものです。
すぐ右側にはギフトショップと特別展示ホールがありますが、行った時は不覚にも見落としました。
いよいよ見学ですが2階はホールなので実質1階と3階に展示室があり、3階から出ます。建物から出るということではなく、フリースペースに出るという意味です。
改札を入ると左手貸出所で日本語の音声ガイドが100元で借りられますが、身分証明書(パスポート)を預けることになります(3階で返却時に返してもらえます)。
1階は左の部屋が動物の剥製、右の部屋が古代からの兵器や防具。中央の通路には左右に彫刻が飾られていて、奥突き当たりがロダン作品の部屋です。
ロダンホール手前左からは中庭に出ることができます。私は庭園歩きで疲れてしまって、この中庭で休憩をしました。いや〜平日火曜というのに凄い人気です。
パンや飲み物を売っており、ミルクコーヒーとパンを買って食べました。何とパンも飲み物も奇美ブランドです。おいしかったです。
3階は、中央通路は1階と同様、左右に彫刻が置かれています。一番奥の部屋は19〜20世紀の芸術ホール。北側の部屋は西洋芸術のホール。南側の部屋は楽器のホール。
そしてトイレとエレベータへの通路は銀器と時計を展示しています。
展示に関する印象
音楽以外は全くのど素人なので私の印象なんてアレですが、でもそれなりに文字にしてみますと・・
圧倒的な驚愕の展示点数ですね。あんなに大きな博物館なのに、展示物の数から考えるとそれでも狭いです。全収蔵品点数はそれより遥かに多いといいますから「凄い」の一言ですね。
さて1階ですが、入って右の動物の部屋には象から鳥に至るまでの大小多くの剥製が、精巧に作られた背景上に置かれています。そこにある動物に再び命を吹き込むような苦心の跡が感じ取れます。
入って左手は兵器ホールです。地球上各地の剣や刃物そして兜や鎧の類その他の武器も多数展示されています。
特に記憶に残っているのはクロスボウや西洋剣の進化の様子で、世界の防具も見応えがありました。日本の勇壮な鎧兜も何点もありましたよ。
剥製も武器もあまりに多くて両部屋とも2回廻りました。彫刻と絵画の展示数も物凄いのですが、全く語れないのでパスします。
3階の楽器の部屋も凄いです。珍しい多数の民族楽器、パイプオルガン、大小様々なオルゴール、自動演奏楽器。オルゴールや自動演奏きの演奏室もあり、日に数回演奏されています。
オーケストラの全楽器はその仕組みがわかるようにしてあります。許氏は特にバイオリン系に造詣が深く、弦楽器の超詳しい製造工程や細かい種類別の多数の展示。
そんな中で私が最も気に入ったのが「オーケストラ演奏室」とも呼ぶべき部屋です。指揮台を中心にして、本来楽器のある場所に写真のように大きなLEDのパネルが設置されています。
このパネルはその中でそれぞれの奏者が楽器の説明をしていますが、1日に何度かオーケストラ演奏をするのです。
この演奏を指揮台の位置で聞くと超絶感動物語が生まれます。音がいい!! それに実際のオーケストラの演奏どうりの方向から聞こえてきて部屋鳴りもちょうどいい感じです。
こんな感動体験ができる場所は他にないでしょう。1日の演奏頻度をもっと上げてくれたらいいのにと思います。
その他、通路にぎっしり展示されている銀器や時計も、本来はそれ専用の部屋が必要じゃないかと思わせる感動がある、というか勿体無い気さえしました。
その他の印象
まだ出来上がって日がないこともあるのでしょうが、トイレや授乳室や救急室や郵便局・ATM等とにかくサービス施設が非常に充実していて綺麗です。更に庭園には身障者・高齢者用のボランティア・カートもあります。
あと自分が実際に利用した印象としては、3階博物館を出たその前にカフェがあって、ここがまたとてもいい感じです。最低300元(だったかな?)の縛りはありますが、窓から庭園を見つついただくコーヒーは記憶に残る味ですね。
正直、楽器ホール一つだけでも立派な博物館で、じっくり見ると聞くと半日はかかりそうです。
なので博物館全体をさらっと回ってしまうと消化不良を起こしてしまいそうです。しっかり見ているとかなりしんどいです。というか1日では生理的にも無理な気がします。
ですから3階を出たところにシックなカフェがあるのは自分的には救われました。
至高の輝きを放つ奇美博物館フォトコレクション
展示館内は撮影禁止なので、それ以外の撮影可能な館内と庭園の写真が中心です。ダイナミックで繊細な驚きが写真を通して伝わるでしょうか。
最後に
日本人の90%以上の人にとって台湾旅行とは台北周辺を訪ねることだそうです。或いはその辺で何かをする。
でも、もしチャンスがあるなら台南にも来てください。台湾人の心の故郷みたいなところです。台湾一優しくて美味しいところです。
そして、台南に来たなら懐かしい台湾とともにこの奇美博物館にも是非お立ち寄りください。懐かしい感動と新しい感動をセットでお持ち帰りください。
奇美博物館は物凄い人気ながらきちんとしたコントロール下で、ゆったりと安全で安心して回れます。
ただ少し残念なのは日本語環境が整備されていないことですね。需給関係にもよるのでしょうが、今後の博物館の改善を望みます。
最後に、許文龍氏は「国を良くするために必要なものは、金銭ではなく、バランスの取れた自然環境、奥深い文化・芸術的用要素です」と仰っています。
そういう信念を曲げずに持ち続け、遂にこのような壮大な博物館として結実し、多くの支持を受け続けていることに対して敬意の念を表明したいと思います。
住所:台南市仁徳区文華路二段66号
電話番号:06-266-0808
開館時間:9:30〜17:30
休館日:毎週月曜日
入館料:200元
ホームページ:奇美博物館
交通手段
鉄道:台湾鉄道「台南駅」で乗車し高雄側一つ目「保安駅」下車。徒歩15分。
バス:大台南公車「高鐵快捷公車H31」利用「奇美博物館」下車。
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