そこで、この記事では上手な「説得法」について解説します。
説得がうまいか下手かで人生が決まるといっても過言ではありません。それくらい大切なのが「説得」です。
何を基軸にしてお話をするのがよいのか少し悩みましたが、古代より多くの人たちに使われてきた王道をお話することに決めました。
「信頼性、論理性、感情への訴求」この三つは説得三要素と呼ばれ、古代ギリシャの哲学者アリストテレスが初めて体系化しました。
順に説明していきますが、この説得三要素は、いかなるシーンにおける説得であっても役に立ちます。すんごく役に立ちます。
まずは、この説得三要素の基本内容の説明をして、そして、応用へと展開します。
説得三要素以外にも、合わせて応用すれば更に説得パワーがアップするロジックも一緒に説明します。
説得したり納得してもらったりは、相手のあることで決して簡単ではありませんが、であればこそ、今回説明する3つの説得要素をしっかりと理解し、応用することが大切です。
目 次
アリストテレスの説得三要素
人をちゃんと説得するためには、多くの要素が必要となりますが、特に重要なアリストテレスの3つの要素について説明します。
1. 信頼性(エートス)
説得をおこなう際には、まず自分自身が信頼できる人物であると見られることが重要です。ここでつまずくと、もうどうにもなりません。
そして、これには専門知識、経験、誠実さなどが深く関わっています。
具体的な方法
- 専門的な知識やスキルを示す
- 過去の成功例や経験を共有する
- 誠実で公平な態度を持つ
信頼されればされるほど、相手はあなたの言うことに耳を傾けやすくなります。「この人の話なら聞こう」と。
実はエートスは次に説明するロゴスと相互関係にあります。
だから、人によっては、上に挙げた「専門知識」や「経験」はロゴス領域にも思えるのですが、この2つは話の信憑性を高める上で非常に重要で、それが信頼につながるのです。
一方、「専門知識」や「経験」がロゴス領域に入ると感じるのは、西洋のフレームワークが日本文化とは少し違うということでもあります。
日本人にとっての「信頼」は、しばしば相手の人柄や行動、そして「空気を読む」能力などから来ることが多く、そして感情を重視するのも大きな特徴です。
ミラーニングの活用
エートスではないのですが、信頼を築く手法として「ミラーニング」も有効です。
これは、相手の言葉や仕草、表情を微妙に真似るテクニックです。
何気なくミラーニングを混ぜて話をしていると、無意識のうちに相手は「この人は自分と似ている」と感じ、信頼を寄せやすくなります。
(エートス)ソクラテスの対話法
ソクラテスは、自分の信念や哲学を人々に広める際に、対話を通じて相手の信頼を勝ち取る方法を用いました。
彼は自らの知識や賢さを誇示するのではなく、質問を投げかけることで相手自身が答えを見つけるように導きました。
このような姿勢が、ソクラテスが高い信頼性を持っていた理由の一つです。
2. 論理性(ロゴス)
説得するためのアプローチや主張が論理的であり、わかりやすいことがポイントです。
そのために、具体的なデータや事実、論理的な推論を用いて、相手が納得できるような説明をすることが重要です。
具体的な方法
- 明確なデータや事実を提示する
- 論点を明確にし、その上で論理的な推論を展開する
- 反対意見に対しても論理的に反論する
日本では、西洋との比較において、論理的な思考やディベートがあまり教育に組み込まれていないように思います。
また、形成された特定のスキルセットや価値観が西洋とは異なるとも考えられます。
なので、より論理性の高い議論や説得を試みたい場合は、以下の項目について、よく理解習得しておく必要があります。
- 事実と意見を明確に区別する:自分が述べるポイントが事実に基づいているのか、それとも主観的な意見なのかを明確にする。
- 根拠を示す:自分の主張には必ず根拠を示し、それがどのように導かれた結論なのかを説明する。
- 反対意見を考慮する:自分の主張に対する反対意見や疑問点を先回りして考慮し、それに対する答えを用意しておく。
- 冷静に議論する:感情が高ぶってもその感情を抑え、冷静に事実と論理で話す練習をする。
プリスプポジションの使用
合わせて使うと効果的な手法に「プリスプポジション」があります。
これは、相手との話の中で「もう既にそうなんだ」と勝手に前提としてしまう考え方です。
例えば「このプロジェクトが成功したら、次は何をしましょうか?」と質問したとしましょう。
プロジェクトが未だ合意されていないのに成功することを前提としています。
しかし上手に使うと、相手は「成功するんだ」と思い込み、その上で次のステップについて考え始めてくれることもあります。
(ロゴス)プラトンのイデア論
プラトンは、ソクラテスの弟子であり、彼の哲学をさらに深化させました。
特に「イデア論」は非常に論理的な構造を持っています。
この哲学は、現実世界のものは「イデア」または「形而上的な原型」の不完全なコピーであると主張します。
このような論理的な枠組みは、多くの人々に影響を与えました。
3. 感情への訴求(パトス)
人は感情的な動物であり、論理だけでなく感情に訴えることも非常に効果的な説得手法です。
ストーリーテリングや具体的な例を出すことで、相手の感情に働きかけることができます。
具体的な方法
- 共感や同情を引き出すストーリーを共有する
- 相手が重視する価値観に訴えかける
- 言葉や表現に工夫を凝らし、感情的な共鳴を促す
上述のように、パトスもまた日本の文化やコミュニケーションスタイルにすんなりとははめ込み辛いかもしれません。
なぜなら、日本では、感情を直接的に表現するよりも、間接的な表現や状況に応じた適切な言葉選びが重視されます。
また、日本人は集団の調和を大切にする傾向があり、個々の感情よりも集団の感情や雰囲気に敏感です。
以上のような事情から、パトスを効果的に行うためには以下のような工夫が有効です。
- 共感を生むストーリー:日本人は他人の気持ちに対して非常に敏感です。そのため、自分自身や他人が経験した感動的なエピソードを共有することで、共感を引き出すことができます。
- 集団の価値観に訴える:個々の感情よりも集団の調和を重視する文化があるため、集団全体が共有する価値観や目標に訴える言葉を選ぶと効果的です。
- 状況に応じた適切な表現:日本では、状況や相手に応じて言葉を選ぶ文化があります。そのため、相手がどのような状況にいるのか、何を感じているのかを理解し、それに合わせて言葉を選ぶことが重要です。
- さりげない感情の表現:日本人は過度な感情表現を控える傾向がありますが、それでも感情自体は大切にしています。そのため、大げさでなくとも、さりげない言葉や行動で感情を表現することが評価されます。
アンカリング効果
感情に訴える際「アンカリング効果」を併用すると効果的な場合があります。
これは、「最初に提示した情報」が後の判断に影響を与える現象です。
例えば、非常に高い価格を最初に提示した後で、実際の価格を提示すると、相手は後者の価格が安く感じる傾向があります。
(パトス)ホメロスの叙情詩
古代ギリシャの詩人ホメロスは、「イーリアス」や「オデュッセイア」といった叙事詩で人々の感情に強く訴えかけました。
英雄の冒険や愛、悲劇、喜びなど、多くの感情が織り交ぜられており、これが古代ギリシャ人に強い影響を与えました。
*****
以上、アリストテレスがまとめた説得の3要素について、あらましは理解していただけたと思います。
次の章で少し具体的に説明しますが、この3つは相手を説得する際に非常に重要です。
そして、これらをうまく組み合わせて使用することで、説得力のあるコミュニケーションが可能になるのです。
説得三要素の使い分けとバランス
ここから少し実践的な話をしていきます。
大切なのは、三要素の上手な使い分けとバランスです。
相手に理解してもらうときに、自論は絶対に正しいからという信念で一生懸命喋るというのは得策ではありません。
相手には相手の立場や考えがあります。
まずは、「この人の話なら聞いてみようかな」という気持ちになってもらわないと、実は論理が正しいとかってあんまり意味がないのです。
なので、相手との取っ掛かり、最初が極めて大事です。ここで相手の気持が決まると言っても過言ではありません。まさにあなた流エートスの見せ所です。
ここを失敗すると、どんなに合理的な議論で相手を圧倒しても同意してくれないし、合意には至らないのです。
ましてや、なかなか首を縦に振らない相手にイライラして「こんなバカと話をしていても時間の無駄」とかって内心思いながら説得を続けると最悪です。
説得にとって非常に大切な「関係性の良化」或いは「関係性の改善」には程遠くどうにもなりません。
つまり、エートスを忘れていては、ロゴス一辺倒では、説得の成功には至らないんですね。
誤解してほしくないのですが「主張」を曲げる必要はないのです。それを受け入れられる自分になることが何より大切であるということです。
そこで登場するもう一つの方法が「パトス」です。
信頼され受け入れられるようになった人が「情熱」をもって語ることで、やっとあなたの言わんとしていることが相手の心のなかに入っていきます。
それを確認できたらもう一押しです。
三要素がバランスよくあなたの言葉に反映されていることが、如何に大切か理解してもらえたでしょうか?
再度言いますが、三要素を理解して徹底しておかないと、、、
例えば、論理的には完璧な説明をしても、何かが気に食わない相手が、とんでもない感情論を振り回し建設的な議論を避け、まるで理解されないなんてことはザラにあります。
例えば、理論整然と主張することが最重要でありそれが全てだと錯覚すると、本来の目的である「人を納得させる」になかなか到達しえません。つまり、そういう思考が強いと挫折してしまう可能性が高いのです。
*****
それでは引き続き、説得の三要素をどのように活かすのかを、幾つかのシーンに分けて考察します。
仕事で活かす説得の三要素
1. 信頼性(エートス): 定期的な報告と進捗管理
定期的に自分の仕事の進捗を具体性を持たせて報告することで、上司や同僚からの信頼を勝ち取ることができます。
また、納期を守る、質の高い仕事を提供し続けるなど、一貫性を持って行動することも信頼性を高めます。
このように、どんな仕事の内容にせよ、同じレベル或いは同じ質を継続することが高い信頼を得る重要な要素だと言えます。
2. 論理性(ロゴス): プロジェクト提案や会議での発表
新しいプロジェクトを提案する際や、会議で意見を述べる際には、その背景や目的、期待される成果を明確にし、論理的に説明することが重要です。
データや事例を用いて、なぜその提案が有用なのかをしっかりと示すことで、他の人々も納得しやすくなります。
3. 感情への訴求(パトス): チームのモチベーション向上
特にチームでのプロジェクトでは、メンバーのモチベーションを高めることが重要です。
そのためには、チームの成功を共有したり、個々のメンバーがどれだけ貢献しているかを称賛するなど、感情に訴えかける要素も必要です。
*****
以上のように、会社での日常業務においても、説得の3要素は多くの場面で活用できます。これらをうまく使いこなすことで、より効果的なコミュニケーションと成果を生むことが可能です。
夫婦間で活かす説得の三要素
もちろん、夫婦間の問題解決においても説得術の3要素は非常に有用です。以下に具体的な例を挙げて説明します。
1. 信頼性(エートス): 家事分担の公平性
夫婦間でよくある問題の一つが家事の分担です。この問題を解決するためには、まず信頼性を築くことが重要です。
例えば、夫が「僕も家事を手伝いたい」と言いつつ実行しないと、妻からの信頼を失います。
一方で、約束を守り、計画通りに家事をこなすことで信頼性が高まります。積み重ねですね。
2. 論理性(ロゴス): 予算計画の合意
夫婦でのお金の使い方はよく問題になるポイントです。
ここで論理性を活用する方法として、共に予算計画を立てることが考えられます。
具体的な数字と計画を提示することで、どちらも納得のいく方法でお金を使う方針を決めることができます。
3. 感情への訴求(パトス): 子育てのビジョン共有
子育てにおいては、感情が大きく関わってきます。夫婦で子育てのビジョンを共有する際には、感情への訴求が有効です。
例えば、「子供にこんな素晴らしい経験をさせたい」といった夢や希望を語ることで、相手の感情に訴えかけることができます。
*****
以上のように、説得術の3要素を夫婦間の問題解決に生かすことで、よりスムーズかつ効果的な解決が期待できます。
それぞれの要素をうまく組み合わせて使用することが、夫婦関係をより健全に保つ鍵となります。
教師が活かす説得の三要素
学校の先生が安定した授業を運営するためにも、説得術の3要素は非常に役立つと考えられます。以下に具体的な応用例を説明します。
1. 信頼性(エートス): 先生自身の自己管理
先生が精神的に安定していると、それが生徒にも伝わり、信頼関係が築かれます。
そのためには、先生自身がしっかりと自己管理を行い、健康的な精神状態を保つことが重要です。
また、授業の準備や進行が計画通りに行われることで、生徒からの信頼も得られます。
2. 論理性(ロゴス): 授業計画とその説明
授業がどのような目的で、どのようなステップで進められるのかを明確に説明することで、生徒はその授業に対する理解と興味を持ちやすくなります。
例えば、数学の公式がどのように使われるのか、歴史の出来事が現代にどう影響しているのかなど、論理的なつながりを示すことが有用です。
3. 感情への訴求(パトス): 生徒の興味・関心に応じた教材選定
生徒が興味を持っていることや、感情に訴えかけるような教材を用いることで、生徒の学習意欲を高めることができます。
例えば、社会問題に関連した話題や、生徒が好きなアニメやゲームに出てくる科学的な要素などを取り入れることで、生徒の心をつかむことができます。
*****
以上のように、説得術の3要素を教育現場に適用することで、先生自身の精神的負担を減らしながら、より効果的な教育が可能になると考えられます。
これらの要素をバランスよく取り入れ、授業運営に活かすことが、先生も生徒も満足する教育を実現する鍵となるでしょう。
(おまけ1)心を言葉に乗せて伝える手法「レトリック」とは?
「レトリック」とは、効果的なコミュニケーションや説得のための言葉の技法や手法を指します。
今まで説明してきた説得の三要素は、古典的なレトリックの一部と言えます。
たかだか人と接すること、当たり前のように誰もが行っている会話や説得、しかし、実はこれがとんでもなく奥が深くて、大昔から研究の対象になっています。
古典的なレトリックが主に口頭や文章による説得に焦点を当てていたのに対し、近代的なレトリックは多様なメディアやコンテキストに対応した形で説得の技術が研究されています。
とはいえ、基本的な要素としてのエートス、ロゴス、パトスは今でも非常に重要な概念です。
ここで、実践的な観点から説得の三要素と関連付けてまとめます。
- 言語の選択と語彙:言葉の選び方や語彙は、話者の信頼性(エートス)に影響を与えます。専門用語を適切に使い、明確な言葉でアイデアを表現することで、専門性と信頼性を高めることができます。
- 論理的構造と整合性:一貫した論理構造を持つプレゼンテーションや文章は、「ロゴス」、すなわち論理的説明と整合性に貢献します。事実やデータ、例証を用いて、論点を明確にし、説得力を高めます。
- 感情への訴求:ストーリーテリングや具体的な例を用いて、聞き手の感情に訴えかける手法は「パトス」に直結します。これにより、聞き手が話者の言っていることに感情的に関与しやすくなります。
- 視覚的要素の活用:スライドやビデオ、インフォグラフィックなどの視覚的要素は、複雑なアイデアを簡潔に伝える手段として有用です。これも「ロゴス」に貢献する要素であり、近代的なレトリックにおいて特に重要です。
- 聞き手の視点への配慮:聞き手が何を考え、何を感じているのかを理解し、それに対応する形でメッセージを構築することは、エートス(信頼性)とパトス(感情)の両方に貢献します。
以上のように、レトリックの各要素は説得の三要素と密接に関連しています。これらをバランスよく組み合わせることで、より効果的な説得が可能になります。
(おまけ2)効果的なプレゼンテーションのテクニック(TEDの秘訣)
コミュニケーションやプレゼンテーションにおける、説得力ある最善の実践方法(ベストプラクティス)として広く知られているのがクリス・アンダーソンの考え方です。
そしてこの考え方は、レトリックや説得の三要素(エートス、ロゴス、パトス)といった古典的な概念と多くの共通点を持っています。
が、彼の「TEDトーク」と呼ばれる手法は、特に「TED」即ちTechnology、Entertainment、Designのプレゼンテーションに特化されています。
今ではこれが更に進化して、科学、教育、ビジネス、アート、社会問題など、多様なテーマでプレゼンテーションの形式や手法として広く使われています。
説得三要素と関連する重要な5項目
クリス・アンダーソンの考え方や指摘を説得三要素に関連付けて5項目としてまとめてみました。
- ストーリーテリング:アンダーソンは、伝えたいアイデアを興味深いストーリーで包む重要性を強調しています。これは説得の「パトス」に直結しており、聞き手の感情に訴えかける力があります。
- 身近な経験:彼はまた、話の中に自分自身や聞き手に近い人々の経験やストーリーを織り交ぜることで、より強い共感や信頼(エートス)を生むと指摘しています。
- 失敗・不器用さ・逆境の要素:アンダーソンによれば、これらの要素をストーリーに取り入れることで、より人間味が出て説得力が増すとされています。これも「パトス」に貢献する要素です。
- 明確なメッセージ:TEDトークでは、一つの明確なアイデアに焦点を当てることが推奨されています。これは「ロゴス」、つまり論理的な説明と整合性に貢献します。
- 視覚的要素:TEDトークではしばしばスライドやビデオが用いられます。これは近代的なレトリックにおいても重要な要素であり、複雑なアイデアを簡潔に、そして効果的に伝える手段となります。
まとめ
説得の三要素—信頼性、論理性、感情への訴求—は、古代ギリシャから現代まで、多様な状況でその効果を発揮し続けています。
ビジネスのプレゼンテーション、夫婦間のコミュニケーションから学校教育まで、この普遍的な原則は私たちの生活の質を高める強力なツールとなることがわかっていただけたと思います。
更に、説得三原則とともに習得すると益々鉄壁になる「レトリック」と「クリス・アンダーソンの提唱」についても、おまけとして説明しました。
これらの知識を学習し練習し活用し、より説得力のあるコミュニケーションを築けるようになるならば、ひとりでに信頼や実績がついてくるでしょう。