北陸新幹線が絶対に大阪まで延伸しない絶望的な理由を明確にする

藤原
この記事では、以下のことがわかります。

  1. 地図上では「あと少し」に見えるのに、なぜ北陸新幹線は1ミリも前に進まないのか
  2. 京都や滋賀の反対だけでは説明できない、この計画特有の違和感の正体とは何か
  3. 人や感情ではなく「制度」に原因があると結論づけられる理由は何か

目 次

 

なぜ北陸新幹線は敦賀で行き止まりになっているのか

北陸新幹線は、東京から長野、金沢を経て、2024年に敦賀まで延伸されました。東京―敦賀間の総延長は500kmを超え、一方で、敦賀―新大阪間はおよそ140kmにすぎません。

それにもかかわらず、敦賀以西は工事はおろか、具体的な計画さえも決定していません。

この状況は、単に、

  1. 反対が多いから
  2. 調整が難航しているから

といった説明では理解できません。

実は、北陸新幹線は敦賀に到達した時点で、計画の性質そのものが切り替わる構造を持っています。まずは、その前提から整理する必要があります。

「敦賀まで」と「敦賀から先」は同じ計画ではない

北陸新幹線は一本の路線として語られがちですが、制度的には「敦賀まで」と「敦賀から先」は、まったく同じ前提で進められてきたわけではありません。

東京から敦賀までの区間は、地方都市と首都圏を結ぶ幹線整備として、比較的一貫した合意形成のもとで進められてきました。

一方、敦賀以西は、すでに新幹線網が存在する関西圏へ乗り入れる区間であり、沿線自治体の受け止め方、期待される効果、負担の意味合いが大きく異なります。

つまり、敦賀は単なる通過点ではなく、計画の前提条件が変わる境界点になっているのです。

北陸新幹線の当初計画に大阪延伸はどう位置づけられていたか

北陸新幹線は、1973年に策定された整備計画の中で、大阪方面への接続も視野に入れた路線として構想されました。ただし、それは「必ず一気に大阪まで完成させる」という意味ではありません。

当初の計画では、北陸地域と首都圏を結ぶことが最優先とされ、大阪方面への延伸は、将来の段階的整備として位置づけられていました。

このため、敦賀以西については、

  1. 具体的なルート
  2. 費用負担
  3. 既存路線との関係

などを含め、改めて条件を整えたうえで判断する余地が残された構造になっています。

敦賀で一区切りが入っているのは偶然ではなく、制度設計上、そこまでしか確定していなかったという側面があるのです。

大阪延伸実現を望む声が改めて浮き彫りにした制度上の問題

敦賀まで開業した結果、関西圏から北陸へ向かう人は、原則として新大阪や京都から在来線特急で敦賀へ出て、そこで北陸新幹線に乗り換える動線になりました。

移動の途中で必ず乗り換えが発生するこの構造は、利便性の面でも心理的な負担の面でも「一体的につながっている」とは言い難いものです。

そのため北陸側の自治体や経済界では、一本の新幹線で関西と直結できれば、首都圏からの流入に加えて、関西からの人の流れもさらに太くなるという期待が強まりました。

ところが、大阪延伸の実現を望む声は、前進どころか、整備新幹線という仕組みに内在していた制度上の問題を、かえって鮮明に浮かび上がらせましたのです。

その問題とは、

  1. 新幹線の建設費負担の考え方
  2. 在来線の扱い、
  3. その他着工に必要とされる複数の条件

などです。

これらは敦賀到達後に新しく生まれた問題ではありません。もともと整備新幹線の仕組みに内在していたものが、「大阪まで延伸」という具体的な要請によって、避けて通れない形で浮かび上がったにすぎません。

 

延伸を止めている最大の枠組み

敦賀以西の延伸計画が前に進まない最大の理由は、複数の自治体が明確に反対しているからです。

では反対の要因は何でしょう? 実は、北陸新幹線が採用している整備新幹線という制度なのです。この制度こそが、将来を見渡せない原因そのものです。

この制度は、全国に新幹線網を広げるために設計されたものですが、「ある条件を一つでも満たせなければ、計画は一切進まない」という、極めて硬直的な構造を内包しています。

そして、制度の硬直的な構造こそが、今日の延伸計画をストップさせている最大の要因なのです。

着工に必要な条件が致命傷になる理由

整備新幹線は、国(独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構)が主導して建設する通常の新幹線とは異なり、着工する前に満たさなければならない条件が明確に定められています。

これがいわゆる「着工五条件」で以下のとおりです。

  1. 安定的な財源見通しが立っていること
  2. 需要予測および投資効果が確認できること
  3. 営業主体となるJRが経営判断として同意していること
  4. 沿線自治体が建設に同意していること
  5. 並行在来線の経営分離について沿線自治体が同意していること

重要なのは、これらが「努力目標」ではなく、すべて満たされなければ着工できない絶対条件であるという点です。

地方部では、これらの条件は比較的整いやすい。なぜなら、新幹線がもたらす利便性と経済効果が明確で、多少の負担があっても合意が形成されやすいからです。

しかし、敦賀以西延伸では、複数の条件が同時に満たされない構造を抱えており、ここが延伸計画の最大のボトルネックになっています。

1つの不同意が計画全体を止めてしまう仕組み

整備新幹線の着工条件には、部分合意という概念が存在しません。沿線自治体のうち、どこか一つでも不同意を示せば、その時点で計画全体が止まります。

これは、少数意見を切り捨てないための制度的配慮でもありますが、裏を返せば、最も条件の厳しい自治体に全体が引きずられる構造でもあります。

西九州新幹線も同じ

同じ制度構造は西九州新幹線でも確認できます。長崎新幹線では、佐賀県が費用負担や並行在来線の扱いを理由に同意していないため、佐賀県区間を含む一体整備は実現せず、結果として佐賀県を通過しない形で、長崎側と福岡側の両端のみが先行的に整備されました。これは、関係自治体の一つが不同意である場合、全体を一本の計画として前に進められず、部分的・分断的な整備にとどまってしまうという、整備新幹線制度の構造的制約を示す典型例です。

敦賀以西延伸計画に係る各県では、

  1. 新幹線が通るが駅は設けられない
  2. 既存インフラのメリットが大きく変わらない
  3. 負担だけが発生する可能性がある

と受け止められています。

そうした自治体にとって、「新幹線ができるから賛成する」という判断は合理的ではないでしょう。

しかし制度上、その不同意は単なる一意見ではなく、計画停止のスイッチとして機能します。これが、議論がどれだけ積み重なっても前に進まない最大の理由です。

加えて、京都では別の意味でも反対が表明されています。

地下トンネル工事が、寺社仏閣や町並み、地下水環境に影響を及ぼす可能性があるとして、伝統産業や文化財の保全を重視する立場から慎重論が根強く、これもまた、合理的な判断に基づく不同意の一つです。

敦賀以西延伸案に特に重くのしかかる2つの条件

数ある着工条件の中でも、敦賀以西延伸計画に特に致命的なのが次の2点です。

並行在来線の扱い

新幹線が開業すると、既存の在来線特急は役割を失い、その路線は原則としてJRから切り離され、地元主体で運営する第三セクターに移管されます。

新幹線の恩恵を直接受ける地域であれば、この負担を受け入れる合理性がありますが、駅が設けられない地域にとっては、「恩恵のない負担」になってしまう。

建設費負担の考え方

整備新幹線では、建設費の一定割合を地方が負担しますが、その算定は受益ではなく、線路が通る距離や工事費を基準に行われます

トンネルが多く、工事費が高騰しやすい区間ほど、負担も重くなる。この仕組みは、都市部や山岳部を含む敦賀以西では、受け止めきれない重さになります。

これら二つの条件は、どちらか一方だけでも厳しい。そして両方が同時に課されることで、敦賀以西延伸計画は制度上、極めて実現が難しくなるのです。

**

さて、第2章で見てきたように、北陸新幹線の大阪延伸が進まない直接の理由は、複数の自治体が合理的な理由から反対しているためです。

そして、その反対を生み出し、かつ調整不能にしている根本原因こそが、整備新幹線という制度そのものにあります。

 

京都が反対する合理的理由と制度の衝突

京都が北陸新幹線の大阪延伸に慎重姿勢を示していることは、しばしば「感情的反発」や「保守的体質」といった言葉で語られがちですが、第2章で整理した通り、反対は感情ではなく、制度と条件を踏まえた合理的判断です。

重要なのは、京都が特別にわがままなのではなく、京都という都市が置かれている条件と、整備新幹線という制度が根本的に噛み合っていないという点にあります。

京都は「新幹線空白地帯」ではない

まず押さえておくべき前提として、京都はすでに新幹線の恩恵を十分に受けている都市です。東海道新幹線が京都駅に乗り入れ、東京・名古屋・新大阪と直結している以上、「新幹線が来ることで生活や経済が劇的に変わる地域」ではありません。

整備新幹線が本来想定してきたのは、高速鉄道が存在しない地域に新たな幹線を通し、時間距離を一気に縮めることです。

京都はこの前提から外れています。そのため、京都にとって北陸新幹線は「必要不可欠なインフラ」ではなく、「追加されるインフラ」に位置づけられます。

この時点で、費用やリスクを冷静に比較する姿勢が生まれるのは、むしろ自然です。

費用負担は「受益」ではなく「通過」で決まる

先に説明しましたように、整備新幹線制度における地方負担は、受益の大きさではなく、線路が通る距離や工事費を基準に算定されます。

つまり、駅が設けられるかどうかにかかわらず、トンネルや高架が建設されれば、その自治体は負担を求められる構造です。

仮に、京都市内を地下トンネルで通過する場合、

  1. 都市部かつ地下区間が長くなり、総工事費が極めて高額になる
  2. 駅を設ける場合は地下深部駅となり、さらにコストと技術的リスクが上積みされる
  3. それに見合う直接的な経済効果は限定的と見込まれている

という条件が重なります。

この状況で、費用対効果を重視する判断を下すのは、自治体として極めて合理的です。問題は、その合理的判断を前提に調整する余地が、制度側にほとんど存在しないことです。

地下水と都市構造という「取り戻せないリスク」

京都がもう一つに重視しているのが、地下トンネル工事による不可逆リスクです。

京都の寺社仏閣や庭園、町家文化は、地下水と密接に結びついています。

地下水位の変化や水脈の分断は、建物の基礎や景観だけでなく、長年積み重ねてきた都市の成り立ちそのものに影響を与えかねません。さらに、発生土の処理や工事期間中の都市機能への影響も無視できません。

これらは「後から修正できる問題」ではなく、一度生じれば元に戻せない性質を持っています。

整備新幹線制度は、こうした都市固有のリスクを個別に精査し、負担配分に反映する仕組みを持っていません。

ここに、京都が主張する合理性と、それを汲み取れない制度の限界が、合意形成を不可能にしています。

二本目の新幹線がもたらすメリットの限界

北陸新幹線が京都を通過した場合、京都にとっては実質的に「二本目の新幹線」が加わる形になりますが、その追加メリットは限定的です。

  1. 既存の東海道新幹線で主要都市とは十分に接続されている
  2. 北陸方面との直結需要は一定数あるが、都市全体を左右する規模ではない
  3. 観光動線としても、現行ルートで代替可能な部分が多い

こうした状況下で、高い建設費負担と不可逆リスクを受け入れる判断は、制度が想定するほど簡単ではありません。

京都が示しているのは「反対のための反対」ではなく、制度が提示する条件と、都市としての合理的判断が一致していないという事実です。

 

滋賀県が拒否権プレイヤーになってしまう構造

第3章では、京都が合理的判断として反対に至る構造を整理しました。

次に見る滋賀県もまた、感情や政治姿勢ではなく、制度上「拒否せざるを得ない立場」に置かれています。

重要なのは、滋賀県の問題が、

  1. 湖西線
  2. 米原ルート

という個別論点に見えながら、実際には、整備新幹線制度と着工五条件が端的にあらわれる局面に位置づけられていることです。

湖西線問題は滋賀固有の事情ではない

敦賀以西延伸計画で滋賀県が最初に直面するのが、湖西線の扱いです。

整備新幹線では、新幹線開業により役割を失う在来線は、原則としてJRから切り離され、沿線自治体主体の第三セクターへ移管されます。

これは着工五条件のうち、⑤並行在来線の経営分離について沿線自治体が同意していること、に明記された絶対条件です。

湖西線は滋賀県にとって、

  1. 県内南北を結ぶ生活路線
  2. 通勤通学を支える基幹インフラ
  3. 代替交通の乏しい路線

であり、単なる「特急の代替路線」ではありません。

この路線を自治体主体で引き受けることは、

  1. 運営赤字
  2. 設備更新負担
  3. 災害対応

を長期に背負うことを意味します。

新幹線駅が設置されない、あるいは恩恵が限定的な地域にとって、湖西線の経営分離は明確なマイナス要因です。

ここで重要なのは、滋賀が特別に慎重なのではなく、制度がそう判断せざるを得ない構造を作っているという点です。

着工五条件が滋賀を「拒否権プレイヤー」に変える

湖西線問題が深刻化する最大の理由は、それが単なる調整事項ではなく、着工五条件に直結しているからです。

着工五条件では、

  1. 並行在来線の経営分離について沿線自治体の同意
  2. 営業主体としてのJRの同意

が、どちらも満たされなければ着工できません。

つまり滋賀県の不同意は、計画遅延要因というより、制度上ただちに計画を止める効力を持っているのです。

これは滋賀が強い交渉力を持っているからではなく、一自治体の合理的判断が、そのまま拒否権になる設計だからです。

この構造は、第2章で整理した「部分合意が存在しない制度」の、最も典型的な例です。

米原ルートが再浮上するも解決策にならない理由

こうした行き詰まりの中で、しばしば提示されるのが米原ルートです。

米原で東海道新幹線に接続すれば、

  1. 湖西線問題を回避できる
  2. 京都市内の地下トンネルを避けられる
  3. 距離が短く工事費も抑えられる

一見すると、合理的な逃げ道に見えますが、しかし制度上、この案も成立しません。

まず、東海道新幹線はJR東海の営業路線であり、北陸新幹線を接続させるには、④営業主体としてのJRの同意が不可欠です。

ここで問題になるのは、技術ではなく企業合理性です。

  1. 東海道新幹線はすでに高密度運行状態にある
  2. 増発のためのダイヤ改正余地は非常に限られている
  3. JR東海にとって収益を押し上げる要因とは言えない

このため、米原ルートは、技術的には可能でも制度上は成立しない、という位置づけになります。

滋賀県にとっても、米原ルートは湖西線問題の完全解決にはならず、県全体として積極的に支持できる案ではありません。

滋賀問題は制度の欠陥が生み出した必然的な結果

ここまで見てきたように、滋賀県は

  1. 湖西線という生活インフラを抱え
  2. 着工五条件の当事者に組み込まれ
  3. 代替ルートでも制度的に救済されない

という三重の制約下にあります。

この状況で不同意を示すことは、政治的駆け引きではなく、制度が用意した選択肢の中での合理的判断であり結論です。

滋賀県は、延伸を止めている主体ではありません。延伸を止めるように機能する制度の中に、位置づけられているだけなのです。

そしてこの構造を踏まえると、問題は別ルートの有無ではなく、着工五条件を同時に満たす代替案を示せていないことにあります。

更にもう一つ、現実の合理的判断が複数並ぶ局面では、そもそも着工五条件という仕組み自体が、この計画に適した設計なのかという問いも残ります。

 

ルート論争が迷走する本当の理由

第4章までで見てきたように、敦賀以西延伸計画では、京都には高額負担と不可逆リスク、滋賀には湖西線問題という、それぞれ合理的に不同意へ傾く事情が存在します。

さらに両者に共通して重要なのは、それらの合理的判断が、着工五条件という制度の枠組みによって、そのまま計画を止める効力を持ってしまう点です。

ここまで来ると、多くの人が次に考えるのが、では別のルートなら解けるのではないか、という発想です。先の米原ルート案しかりです。

ところが敦賀以西延伸では、その議論が前へ進むどころか、むしろ迷走しやすい。

理由は単純で、ルート論争が、最適解の探索ではなく、制度条件の同時達成ゲームに変質してしまうからです。

国交省が明記する着工五条件は、満たせない要件が一つでも残れば着工できない、という性格を持っていましたね。

つまり議論は、別ルートの良し悪し比較ではなく、全員が丸を出す形に落とせるかどうかに収束せざるを得ないのです。

どれが最適かではなく、どれが条件を満たせるか

敦賀以西延伸の議論が難しいのは、関係者が最初から同じ尺度で話していないからです。

  1. 京都は、工事費負担だけでなく、地下水や文化財など不可逆リスクを含めて判断する
  2. 滋賀は、湖西線を含む並行在来線の扱いが実務と財政の核心になる
  3. 国は、投資効果や採算性といった制度要件を満たす説明責任から逃げられない
  4. JRは、運行主体として同意の可否そのものが制度要件に組み込まれている

この状態でルート案だけを並べても、議論は噛み合いません。なぜなら、ルートは目的ではなく、条件を同時に満たすための手段に過ぎないからです。

そして敦賀以西延伸では、条件を満たすためにルートをいじればいじるほど、別の条件が悪化するという悪循環。

たとえば、都市部を避ければ距離や工事が増え、事業費と工期が膨らむ。事業費と工期が膨らめば、投資効果の説明はさらに厳しくなる。

結果として、ルート論争は、最適化の議論ではなく、どこかの条件で必ず詰むという前提のもとで、終わらない永遠の綱引きになります。

京都回避ルートが制度上成立しにくい理由

京都市内を通さなければ解決する。直感的には筋が良さそうに見えます。しかし、京都回避は論点の一部を外すだけであり、着工五条件の外に出られるわけではないのです。

京都市内を回避すれば、地下水や都市構造リスクといった論点は外せますが、その一方で、ルートは迂回し、距離やトンネル区間が増える傾向が避けられません。

その結果、事業費が市内通過案より必ず高くなると断定できるわけではないものの、工事費の積算根拠や投資効果、財源説明について、より厳しい説明責任を負う構造になります。

さらに、並行在来線の扱いや沿線自治体の同意といった着工五条件の核心部分が、この新提案ルートで解消されるわけではありません。

むしろ、ルート変更によって新たに関係自治体が増えれば、同意のハードルは上がることすらあります。

ここで重要なのは、京都回避が政治的には魅力的な逃げ道に見えても、制度要件の同時達成という意味では、解の数を増やすどころか、別の難所を増やす可能性が高いという点です。

だから議論が迷走します。回避したはずの問題が、別の形で戻ってくるのです。

需要予測と投資効果が落とすルート

ルート案がいくつ提示されようとも、最終的に残るかどうかを決めための最重要要因は、需要予測と投資効果です。

整備新幹線制度では、需要見通しや投資効果の確認が着工の前提条件として組み込まれているため、ここを通過できないルートは制度上、先に進めません。

事業費が膨張し、工期が長期化するほど、投資効果を正面から説明するのは難しくなります。

しかも敦賀以西延伸は、京都のように既に新幹線がある都市を含み、滋賀のように負担が先に立つ論点も抱える。

結果として、同じ総論の期待はあっても、制度が求める説明の精度と、自治体が求める納得の種類が一致しません。

だから、どのルートが良いかという議論は、最後は必ず、条件を満たせるだけの需要と効果を示せるのか、そしてそれに見合う負担とリスクを誰が引き受けるのか、という問いに収束します。

ルート論争が迷走している背景には、制度が前提とする同時達成条件と、現実の合理的判断との間に構造的なズレが存在し、これが解消されない限り、どのルートを提示しても議論は収束しません。

 

なぜ国は小浜ルートを手放せないのか?

──国家の論理と政治的不可逆性──

第5章までで見てきたように、大阪延伸が進まない直接的な理由は、関係自治体の中に明確な不同意が複数あるからです。

そして、その不同意が積み上がるほど計画が動かなくなるのは、着工五条件のうち一つでも欠けると前進できない仕組みになっているためです。

それにしても・・「国はなぜこの状況を認識しながらも、小浜ルートを手放せないのか?」という問題です。

重要なのは、国の立場は京都や滋賀と対立するものではなく、まったく別の論理で動いているという点です。この論理の違いが、合意形成をさらに難しくしています。

1973年整備計画で固定されたルート

北陸新幹線のルートは、場当たり的に決められたものではありません。

1973年に策定された全国新幹線鉄道整備法に基づく整備計画の中で、北陸新幹線は「小浜付近を経由して関西圏へ接続する路線」として位置づけられました。

ここで重要なのは、この計画が単なる構想ではなく、国家として正式に決定された路線計画だという点です。

国にとって小浜ルートは、

  1. 技術的に検討された結果
  2. 関係自治体との長年の調整の積み重ね
  3. 法制度の枠内で確定したルート

という性格を持ちます。

したがって、小浜ルートを外すということは、「別の案を考える」というレベルの話ではなく、国家が一度決めた計画そのものを修正する行為になります。

福井側が譲れない理由と国の立場

小浜ルート計画が維持されている背景には、福井県側の事情もあります。

福井県にとって北陸新幹線は、単なる交通インフラではありません。

  1. 地域振興
  2. 企業立地
  3. 観光動線

など、長期的な発展戦略の中核として位置づけられてきました。

特に、

  1. 北陸新幹線は福井県内を縦断する形で整備されている
  2. 小浜ルートは県内の均衡ある発展を前提としている
  3. ルート変更は、県内で積み上げてきた合意を根本から崩す

という事情があります。

国の立場から見れば、ここで福井県側の前提を覆すことは、単に一自治体の不満を解消する話ではなく、国家と地方の約束を反故にする行為として映ります。

この点でも、国の論理は「調整が足りないから進まない」という次元にはありません。

国家の約束という政治的コスト

国が小浜ルート計画を手放せない最大の理由は、政治的コストの問題です。

一度、国の正式計画として決定されたルートを撤回・修正することは、

  1. 他の整備新幹線計画への影響
  2. 将来のインフラ計画に対する信頼低下
  3. 「決まった計画は変わり得る」という前例

を生み出します。

これは、単に北陸新幹線の問題にとどまりません。全国で進められているインフラ整備全体の前提を揺るがすことになります。

そのため国は、

  1. 京都府や滋賀県の合理性を理解できないわけではない
  2. 制度の硬直性に気づいていないわけでもない

にもかかわらず、簡単にルートを手放すことができない立場に置かれています。ここに、自治体の合理性とも、制度の論理とも異なる、国家固有の不可逆性があります。

計画修正がもたらす別の破綻

もし仮に、小浜ルート計画を放棄し、別ルートに一本化するとした場合、何が起きるでしょうか?

それは、

  1. 福井県側との合意の崩壊
  2. 1973年計画からの連続性の断絶
  3. 国が掲げてきた整備方針そのものの再設計

を意味します。

つまり、延伸計画が前に進まない理由は、「小浜ルート計画が最適だから」ではなく、小浜ルートを手放すことで生じる破綻が、あまりにも大きいためです。

この時点で、北陸新幹線大阪延伸は、

  1. 自治体は合理的に不同意
  2. 制度はそれを吸収できない
  3. 国は過去の決定を簡単に覆せない

という三層構造に閉じ込められています。

これが、「なぜ国は小浜ルート計画を手放せないのか?」という問いへの答えです。

 

すでに起きている事実が示す結論

これまでの章では、京都府・滋賀県・福井県それぞれの合理的判断、そしてそれらを同時に満たすことを求める整備新幹線制度の構造を整理してきました。

最終章では、議論や解釈ではなく、すでに公的資料や予算措置として表に出ている事実から、現在地を確認します。

予算に現れない大阪延伸という現実

まず確認すべき最も重要な事実は、大阪延伸に関する新規着工費が、国の予算に計上されていないという点です。

整備新幹線事業において、

  1. 調査
  2. 環境影響評価
  3. 設計
  4. 着工

は段階的に進みますが、本当に前に進む計画には、必ず「新規着工費」という形で予算上の痕跡が残ります。

ところが、敦賀で止まっている北陸新幹線を大阪まで延ばす計画については、「検討」「調査」「可能性の確認」といった名目は続いているものの、着工を前提とした予算措置は確認できません。

これは偶然でも、政治判断の先送りでもありません。先程から述べていますように、着工五条件が満たされていない以上、制度上、計上のしようがないからです。

予算は意志の表明です。その予算が存在しないという事実は、国が現時点で、北陸新幹線の大阪延伸を「実行段階の計画」として扱っていないことを、静かにしかし明確に示しています。

調査費だけが積み上がる状態の意味

然りとて、完全に動きが止まっているわけでもありません。大阪延伸に関連する調査費や検討費は、断続的に積み上がっています。

この状態は、一見すると「前進」に見えますが、ここで重要なのは、調査費が増えていることと、計画が前に進んでいることは同義ではないという点です。

調査とは、本来、

  1. 条件が整いつつある
  2. 実行可否の最終確認

という局面で意味を持ちます。

しかし本件では、

  1. 自治体同意
  2. 並行在来線問題
  3. 投資効果

といった根本条件が解消されていないまま、調査だけが継続しています。

これは「進めるための調査」ではなく、進めない理由を確認し続けている調査と位置づける方が実態に近いです。

制度上、着工できないことが分かっていても、計画を完全に白紙に戻すことは、政治的にも制度的にも容易ではありません。

その結果として生じているのが、調査費だけが積み上がる現在の状態です。

これは前進なのか、それとも時間稼ぎなのか?

では、この状況は前進なのでしょうか。それとも単なる時間稼ぎでしょうか?

答えは、そのどちらでもありません。

これは、制度上の制約によって、前にも後ろにも進めない状態が固定化しているというのが最も正確な表現です。

  1. 進めば着工五条件に抵触する
  2. 戻れば国家計画の否定になる

この二つの板挟みの中で、「何も決めない」という選択が、最も合理的?になってしまっている。

つまり、国家計画は、予算、調査、検討のいずれかの形で、常に「何らかの扱い」がなされ続けることを前提に設計されています。

つまり、条件が整わないからといって、計画を完全に止めたり、何もせず放置したりするという選択肢は、制度上あらかじめ用意されてはいないのです。

北陸新幹線は「誰かの反対」で止まっているのではない

ここまでの事実を踏まえると、

  1. 京都府が反対しているから
  2. 滋賀県が同意しないから

という説明が、どれほど単純化されたものかが分かります。

確かに、直接的な停止要因は、関係自治体の不同意です。しかし、その不同意は、制度が提示した条件に照らして合理的に導かれた結論です。

誰かが無理をすれば解決する問題ではありません。無理を許容しないように制度が設計されている以上、合理的な不同意が重なれば、計画は止まります。

止まっているのは計画であって、思考や努力が止まっているわけではありません。

制度・歴史・経済合理性が作った多重ロック

北陸新幹線の大阪延伸を縛っているのは、単一の要因ではありません。

  1. 1973年の整備計画という歴史的前提
  2. 着工五条件という制度設計
  3. 各自治体の財政・インフラ・生活への影響
  4. JR各社の企業合理性
  5. 国としての説明責任と不可逆性

これらが同時に成立しなければならないという構造が、結果として多重ロックを形成しています。

一つ外せば済む話ではありません。すべてが絡み合っているからこそ、解決策が見えないのです。

なぜ大阪延伸は極めて困難だと言い切れるのか

ここまで確認してきた事実を総合すると、北陸新幹線の大阪延伸が極めて困難だと言い切れる理由は明確です。

それは、誰かの判断を変えれば動く段階を、すでに超えているからです。

  1. 制度を変えるか
  2. 国家計画の位置づけを変えるか
  3. 着工五条件そのものを見直すか

いずれも、個別路線の調整では済まない領域に踏み込まなければなりません。

北陸新幹線の大阪延伸が進まないのは異常事態ではありません。制度・歴史・合理性が同時に作用した結果として、ここにとどまらざるを得ない構造が形になっているのが現在の状況です。

明るい未来の一つも語って締めたいところですが、リサーチをしても、根拠たり得る事実(一次情報)がでてこないので、残念ながらこれで終了とします。

シェアをお願いします!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です