目 次
広告表示に潜む問題点
最近目にする広告は、テレビ上でも紙面でもネット上でも・・・
- 強調表示
- 打ち消し表示
この組み合わせによるものが非常に多いです。
単語二つ並べてもなんのことかわからないかもしれませんが、テレビのCMを思い出してください。以下に再現します。
- 強調表示・・「〜を飲み始めてから、階段の上り下りが楽になった。膝が痛くなくなった。散歩が楽しくなった」
- 打ち消し表示・・ありえないような小さな薄い文字で「個人の感想であって商品の効果を表しているものではありません。」
ね、よくあるでしょ。
このように如何にも「凄い」と強調しておいて「実は・・・」と限定したり否定したりする、「強調表示」と「打ち消し表示」をセットにして消費者にアピールするのが、今頃良くある広告手法なのです。
ではそれについて、あなたにお話する必要があるのでしょうか?
もし、こういった広告により、商品の理解が容易になり購入判断の助けになるということだけなら、これは納得だし特に説明の必要もないでしょう。
でも、実態は全くそうじゃないのです。
今、世に溢れている広告を読んだり聞いた消費者は、それが原因で・・・
- ありもしない効果を期待して
- 契約上に別の縛りがあるのをよく理解できずに
- 確約できない保証を信じて
- 強調表示での金額以上に支払いが発生することを理解できずに
購入し、契約し、その結果として後悔をしたり実質的な損害を被ったりしています。
これで良いわけがありません。誤解したり勘違いしたりして不要な買い物や契約をしないために、私たちは知っておくべきことがあります。
そこで現在の広告の主流手法を詳しく説明するとともに、実際に広告を体験した消費者がどのような反応を(その反応は私やあなたの反応であるかもしれません)示すかも見ていきます。
そして、そういうことへの理解を通じて、少しでも納得のいく商品購入や契約を行えるようになればいいなと考えています。
強調表示だけなら問題はない
強調表示自体は、それが販売する商品・サービス・契約などの取引条件(品質や価格等)をはみ出さない表現であれば何の問題もありません。
- どんなに大きなキンキラキンの文字で表現しても
- 俳優がどんなに魅力ある顔でセリフをキメても
全く問題はありません。
ところが現実は、「強調表示」だけで広告が完結しているケースはほとんどありません。「強調表示」の説明が、商品やサービスに対し無条件に無制限に当てはまることはほとんどないのです。
- 「一ヶ月で5kgも痩せました」という強調表示は、商品購入者全員が実感できることでしょうか?
- 「これを毎日飲んで朝起きが楽になりました」という強調表示は、商品購入者全員に保証できることでしょうか?
当然違います。そこで「打ち消し表示」という追加説明が必要になってくるのです。
打ち消し表示が必ず悪いわけじゃない
確かに広告に「打ち消し表示」はつきものです。しかし、それがあるから直ちに悪い、ということでもありません。
どういうことか?
つまり、「打ち消し表示」が「強調表示」と同等の扱いで、この二つがセットになって全体として「誤解や不理解」を避けるための意図が明確なら問題はないのです。
仮にそうであるなら、むしろ消費者に配慮した広告だと言えるかもしれません。しかし残念ながら、なかなか「そうだ」とは言えない現実があります。
「打ち消し表示」の在り方は問題だらけです。知れば知るほど「どうしてこういう表示方法を使うのだろう?」という疑問が湧いてきます。
では、どのような在り方で何が問題なのか。その辺を紐解いていきましょう。
実際の「打ち消し表示」の種類
一口に「打ち消し表示」といっても、実は、いくつもの種類があります。消費者庁では7つに分類しているので、それに沿ってお話をします。
まずは具体的な類型を下に示しますね。
どうでしょうか。何をどんなふうに感じられたでしょうか。
とりあえず目につく大きな特徴として、どれもこれも「強調表示」で例外を想定させない「言い切り」をしています。
言い切っているのに次に「打ち消し」をするわけです。何故こんな手法を使うのでしょうか。消費者としては、そこに隠されている事業者の本当の意図を見抜く必要があります。
では、上の一覧表に例示した「打ち消し表示」のどの辺に問題があるのか具体的に見て行きましょう。
その前に、どういう表示が消費者にとって望ましいのか、あるべき「表示」の姿とはどういうものを明らかにします。
あるべき「表示」の姿
消費者庁は「打消し表示に関する実態調査報告書(概要)」の冒頭で、およそ次のようなことを述べています。
- 強調表示・・対象になる商品やサービスそして取引条件の内容を的確に表示し、「打ち消し表示」を行わないことが原則である。
- 打ち消し表示・・「強調表示」だけでは消費者が認識できない条件などがある場合に限り、「例外」的に使用し、「わかりやすく」表現されなければならない。
さて、現状と比較してどう思われますか。あるべき「表示」の姿からは程遠いと私には思えるのです。
「打ち消し表示」は使わないことが原則だとされているのに、それどころか、使うことを大前提として「強調表示」が作られているのが現状です。
「強調表示」自体は対象の商品やサービスそして取引条件について逸脱しない事実が述べられている限りは問題がありません。
しかし「強調表示」自体は問題なくても、それだけでは説明の全体像にならないから、必ず「打ち消し表示」を付け加えるというのであれば、それは消費者庁の言う「あるべき姿」ではないと思います。
ましてや、消費者が「(客観的事実ではない)強調表示」だけを信じると困るから、「打ち消し表示」で「それは単なる個人の意見ですからね」などと付け加えるに至っては、もう消費者から不信感を抱かれてもしょうがないでしょう。
以上のようなことを踏まえて、「打ち消し表示」に見える問題点を更に深く見ていきます。
問題がある「打ち消し表示」とは
上の一覧表にある事例に基づいて説明して行きます。
「例外型」のケース
これはインターネット接続に使うルーターの広告です。
「強調表示」では「どこでも快適に」と記載しながら、「それが実現できない場合もある」と「打ち消し表示」しています。
このケースでの問題点は、消費者の中にはインターネットの基本的な仕組みを知らない方が一定数おられて、「打ち消し表示」の内容自体がわからない場合があります。
そしてわからないと、強調表示の「どこでも快適なインターネット接続」だけが頭に残り、「この商品は他と比べて良い」と誤解する恐れがある点です。
もし誤解や不理解のまま実際の消費行動に至ったら、この広告のあり方にあるいは制作姿勢に問題ありとは言えないでしょうか
「体験談型」のケース
このケースの最大の問題点は、「体験談」と言う体裁を装うことで、それを読んだ人の多くが「効果がある」と認識してしまうところにあります。
仮に「打ち消し表示」に気づいても、商品の有効性をさして疑わない傾向があり、それが商品購入の動機となるのであれば問題であると言わざるを得ません。
「体験談型」はサプリメント業界の定番手法ですが、「それを飲むだけで短期間でダイエット成功した」り、「膝の痛みが消えて階段が登れるようになった」りしたら、それらの商品はもはやサプリメントではありません。
じゃあ何か? はい、薬品です。薬事法の世界ですよ。
ただの食品を飲むだけで誰もがどんどん体重が落ちたり、体の特定の部位に変化が出たりしたら危険でしょ。そんな商品を国が「食品(=サプリメント)」として認可するわけがないのです。
「個人の感想」というウソ
これは動画(テレビ)での広告で説明するのがわかりやすいです。
画面に人物が登場して、対象商品が如何に素晴らしいか、効果があるか述べているやつね、誰もがすぐに一つ二つは思い出すんじゃないでしょうか。
そしてそのCMが終了するまでに、小さな字の「打ち消し表示」が「個人の感想であり・・・」というわけです。
どこがウソなのか?
テレビに出てる人は誰ですか? 全く利害関係のない一般人ですか?
違いますよね。当然俳優です。俳優が広告制作会社の用意した台本を喋っているのです。
そして、その台本は広告を依頼した事業者の意向を汲んで製作されているから、都合のいい話しか出てこないのです。
つまり、「俳優のセリフ=事業者の意向」という関係が成立するわけで、個人の意見でもなんでもないではありませんか。
なのに消費者にこういったCMを見せ聞かせ、そして「個人の感想であり・・・」ってどういうことなのでしょう? 幾ら何でもまずいと感じませんか?
事業者は消費者の方を見て広告を制作させているのではなく、本来薬事法に引っかかる内容を、いかにして引っかからないようにすり抜けるか、それのみを考えて製作しているように思います。
さて問題のある「打ち消し表示」をもう一つだけ見ておきましょう。
「別条件型」のケース
「別条件型」はスマホ契約によくあるケースです。
「強調表示」で得た情報・お得感が実は特定の条件下でのみ実現するのですが、それがとってもとってもわかりにくいところが大きな問題です。
広告を見た消費者が、仮に「打ち消し表示」に気づいても内容がよく理解できず、「まあ兎に角得なんだろう」という思い込みを抱いてしまいやすいところが問題です。
そして、幻のお得感に包まれて契約に及ぶと、あまりのややこしさに正常な判断ができなくなり、契約してみたものの得なのかそうでもないのかすらよくわからないという事にもなりかねないのです。
ちょっと見の広告じゃ、とってもじゃないが正確な理解はできません。それに関しては変な免責条項のある保険契約とよく似た部分がありますね。
そう、保険契約もよくよく気をつけてくださいね。入院して保険金を受け取れると申請したら、「今回のケースは免責事項に該当し受け取ることができません」とかって言われた日にゃ、なんのために毎月支払いをしてたのかわからなくなりますよ。
「別条件型」では、広告の在り方よりも契約の複雑さわかりにくさが問題でした。
「打ち消し表示」の表示方法に関する問題点
次に「打ち消し表示」の表示方法とその問題点を探っていきます。簡単にいうと、極めて見辛く読みにくくなっているのです。
どういうふうに見辛いのか、具体的に確認して行きます。
広告全体に共通している問題ある「打ち消し表示」
1. 「強調表示」に対し「打ち消し表示」の文字が小さくて色が薄い
紙の媒体でもテレビやネット広告でも、兎に角「打ち消し表示」の文字が小さい場合が非常に多いのです。その上文字の色まで薄いケースがあります。
ですから、こんなことでは当然「打ち消し表示」は見難い、或いは見逃される可能性が高くなるのです。
強調表示と打ち消し表示両方に対する理解が、広告される商品やサービスの正しい理解に繋がるのに、表示の片方(打ち消し表示)だけを理解され辛くしてどうしようというのでしょうか。
2. 「強調表示」の配置が中央なのに「打ち消し表示」は小さく隅に置かれている
「打ち消し表示」の文字は小さい上に、配置される場所が(強調表示が画面中央なのに対し)下の方隅の方というケースが非常に多いです。
「強調表示」と「打ち消し表示」の両方で全体像がわかるのに、その片方を見難くする意味はどこにあるのでしょう。
3. 背景色と「打ち消し表示」の文字の色
これも見難いケースが多いです。
例えば、色と黒なら見やすいですが、背景が同系色や模様調だと途端に見難くなります。
動画広告に見る問題ある「打ち消し表示」
1. (文字が小さい上に)表示時間が短い
テレビCMなどで実際にご覧になればこの意味がすぐに理解できます。
テレビに近づかなければ読めない小さな文字を数秒表示されても理解できるはずがないのです。全部を読み切ることすらできません。
事業者がハナから「打ち消し表示」に対する消費者の正確な理解を妨げているということでしょうか。
2. 「強調表示」のあと別画面で「打ち消し表示」が表示されるため気づかないか関連性があると認識できない
つまり「強調表示」画面で圧倒的な印象付けを行った上で、画面を変えて「打ち消し表示」を行っても正常に認識できない、最初の画面との関連性を感じないなどという弊害があります。
これもテレビを見ていれば簡単にわかることなので実際に自分で確認してみましょう。
3.「強調表示」が音声とともに流れるために「打ち消し表示」に意識がいかない
一つの画面に「強調表示」と「打ち消し表示」があるものの、その画面表示の間中「強調表示」内容を説明する音声が流れ、消費者の意識は耳も手伝ってどうしても「強調表示」の方へ行ってしまいます。
ですから結果的に商品やサービスに対する正しい認識ができなくなります。
WEB広告に見る問題ある「打ち消し表示」
1. スクロールしないと「打ち消し表示」が現れない
PCにしてもスマホにしても一画面で広告の全てが表示されていることはほとんどなく、ほぼ必ずスクロールが必要となるのは誰もが経験していることでしょう。
そして「打ち消し表示」がスクロールしないと現れない場合、消費者は「打ち消し表示」に気がつかないか、気がついても上の「強調表示」の補完説明であることに気がつかなかったりするのです。
一画面に表示できる情報に限りがあるのでスクロールはやむを得ないにしても、「打ち消し表示」に導く適切な誘導文や連想できる工夫が取られているかどうかが、消費者の正確な理解に影響を及ぼします。
さて、問題ある「打ち消し表示」の表示方法について見てきました。
では次に、こういう表示によって一般消費者は「打ち消し表示」に対し、どんな反応を示すのでしょうか? これについてご説明します。
「打ち消し表示」に対する消費者の認識
消費者庁の調査によると一般消費者はかなり批判的に「打ち消し表示」を意識していることがわかります。(回答者は1,000人)
- 企業が不都合を隠すために小さな文字を使っている・・52%
- 企業が不都合を隠すため曖昧な表現を使っている・・37%
- 企業が不都合を隠すため難しい表現を使っている・・31%
この結果をどう見ますか? これだけ多くの人が「打ち消し表示」の表現方法を「企業が不都合を隠すために」使っていると回答しているんですよ。見過ごせる話じゃないでしょ。
ところで、一方においては、ちゃんと以下のような認識を持っている方もかなりの割合でおられる事もわかります。
- 例外事項や条件などの重要事項が書かれている・・40%
何て言うんでしょうか、事業者もこのようなことは重々わかってるでしょうから、改善しようと思えばいつでもできるのに、非常に遅々としてますね。
消費者が「打ち消し表示」に意識を向けている度合い
今まで確認してきた「打ち消し表示」はお世辞にも見やすい理解しやすいと言えるものではありませんでしたが、消費者はこの「打ち消し表示」にどれくらい関心を持っているのでしょうか。
再度申し上げますが、「強調表示」と「打ち消し表示」を合わせて理解して、初めて広告対象の商品やサービスの実態が理解できるわけです。
ところが・・・
普段から「打ち消し表示」に関心を持っている層(680人/1000人)でさえ、50%〜73%の方達が見ない・読まないと回答してるんですね。
どうして購入判断の際の大切な情報を知ろうとしないのでしょうか?
「打ち消し表示」を見ない・読まない理由<()内は、普段から「打ち消し表示」を意識している回答者>
- 全ての媒体において「文字が小さくて読みづらいから」が20%〜30%(32%〜38%)
- 「読むのが面倒だから」が20%〜35%(21%〜40%)
- 動画広告だけの特徴として、「表示時間が短くて読みきれないから」が36%(50%)
と言う結果で、本来読まれなければならないものが読まれないのは、事業者側の見せ方に大きな問題があるからではないでしょうか。
逆に考えると、事業者が問題点を改善すれば、消費者は今よりもより商品の全体像を正確に掴めるようになる可能性があります。
まとめ
消費者が商品やサービスを購入したり契約を締結したりしてお金を支払うには、本来商品に対して十分に理解し納得することが必要であり、またそれが前提であるはずです。
ところが、それらを示す広告のあり方と消費者の反応はどうでしたでしょうか?
- 「打ち消し表示」の文字が小さくて見辛い、読む気がしない
- 「打ち消し表示」を確認していたら「強調表示」を音声でも流すので集中できない
- (動画)「打ち消し表示」を読もうにも表示時間が短くて読み終わる前に画面が変わる
- (動画)「打ち消し表示」の背景がチラチラして文字が見えにくい
- (WEB広告) 「打ち消し表示」がどんどんスクロールしないとなくて、しかも関連性がよくわからなくて、見る気がしなくなるか意識の連続性が途切れる
これらの事例は全て「打ち消し表示」を見にくい、理解しにくいということです。
商品やサービスを購入してもらうためには、「強調表示」も「打ち消し表示」も同等にちゃんと理解して判断してもらうべきなのに、事業者側はそういう意思が働かないのでしょうか。
というより、これらの在り方は明らかに故意であり、意識して制作しているものです。消費者にとって良いことだとは到底言えません。
今まで何十年と日本に住んで日本の商品やサービスの中で生活してきました。そして私は日本の商品やサービスは非常に優れていると実感しています。
日本以外から流れてくる様々なニュースを読んでいても見ていても、やっぱり日本の商品やサービスはいいよね、という結論になるのです。
時々は、事業者の中にはマスコミを賑わすアホなことをしている人もいますが、しかしそうであっても、そこの商品でもって病気になったり生命が危険に晒されたり、使用上の致命的な不具合が起きたりすることはほとんどないのです。基本的に悪意がない。
ですから、そういう部分は確かに評価されてもいいとは思います。でもね・・・なにか釈然としない。
日本の企業風土って、日本人が本来持ち合わせている事業精神って、この記事で明らかにしてきたような今の広告のあり方に見られる商法とは縁がないもののはずなんですけれどね。
そう、そこに「釈然としない」本質的な原因が潜んでいるはず。
それとも、私が問題点に疑問を持ちつつ、でも勝手に日本の企業を「良い子ちゃん」だと思い込みたくて、現代の儲け手法についていけないだけかもしれないのか。
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