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地震大国日本のマンションに住む心得
地震大国日本では繰り返し大小の地震が年中発生しています。
今までに発生した大地震災害のシーンは、報道の写真や動画を繰り返し見て、その凄まじくも痛々しい状況をよくよく覚えています。
また特に最近は、「大きな首都直下型地震や南海トラフ大地震がいつ発生してもおかしくない」と頻繁に言われます。その想定被害の大きさが語られています。
そんな中で暮らしている私たちですが、もし新たに住むべきマンションを選ぶとしたら、巨大地震発生を選択考慮の中心にすえて、何を根拠に何階くらいが妥当だと判断すればよいのでしょうか。
日本に住み続けるのであれば、当然リスクを受ける覚悟は必要ですが、同時に何より大切なのは五体に被害が及ばない環境に住む事です。
どんなに凄い大地震に遭っても、体さえ元気なら、まだなんとかなる可能性はあります。逆にいえば、そこだけは常に最優先にしなければならないのです。
そんなわけで、検討項目はたくさんありそうです。
ということで、この記事は「巨大地震を考慮した場合マンションの何階に住むのが合理的か」にフォーカスして、色々と考えていきたいと思います。
あなたなら、巨大地震発生の発生を前提とすれば、マンションの何階あたりに住みたいですか?
今回は、あくまでも「マンション」に限定して考えて行きます。
揺れが厳しいのは高層階か中層階か低層階か
答え:どの階とも言えない。
揺れが苦手でできるだけ揺れない階を買いたいと考えても、その願いを叶えられる階はないのです。どの階でも大きく揺れる時は揺れます。
震度が強ければ強いほど、どこに住んでいても、より揺れを感じることは間違いありません。
でも、同じ地区に住んでいて同じ地震に遭遇しても「すごく揺れを感じた」人と「あんまり感じなかった」人がいるのはなぜでしょう。
その疑問を解くヒントは「周期」という言葉にあります。
地震動の種類と揺れの特徴
地震の揺れには短い周期のものと長い周期のものが混ざっています。カタカタカタと揺れるのが短い周期の地震で、ゆ〜らゆ〜らと揺れるのが長い周期の地震です。
どんな地震も同じ揺れかたをするのではなく、発生源によって違った特徴を示します。発生源は2つあって、
- 直下型地震
- 海溝型地震
です。
直下型地震は活断層のズレが揺れの原因で、短い周期の成分が多いのが特徴です。激しく小刻みに揺れます。
海溝型地震は短い周期とともに長い周期の成分も多く含まれています。この長周期による揺れは、大きくゆっくり長時間というのが特徴です。
長周期の揺れにはもう一つ大きな特徴があって、それは、
- 遠くまで影響を及ぼす
- なかなか収まらない
ということです。
地震は地面の揺れで音は空気の揺れです。この二つは全く違うようで実はよく似た特性を持っています。
野外コンサート会場に近ずくと、最初に聞こえてくるのは、ベースドラムやベースギターの音で、つまり、低い音(周波数の長い音)は遠くまで届くのです。
次に、ピアノの高音・低音の比較ですが、一番高い音はキーを叩いた途端に消えます。でも一番低い音はキーを離すまでかなり長い間鳴っています。
つまり低い音(周波数の長い音)は、なかなか収まらないのです。
一方、建物にも固有周期というものがあり、固有周期とは一回揺れるのにかかる時間です。
では、地震動周期と建物の固定周期はどういう関係にあるのでしょうか? ここが大きなポイントです。
建物の固有周期と地震動の周期
建物の固有周期の時間の長さ短さには幾つかの特徴があります。それは建物が、
- 硬いほど短い
- 重いほど長い
- 高い(高層)ほど長い
というものです。具体的な例としては、
- 木造・中低層建物・・0.2秒〜1秒程度
- 高さ60mの建物・・1〜2秒程度
- 高さ200m・・4〜6秒程度
一方、地震動の周期は、以下の6つに分けられています。
- 極短周期地震動・・0.5秒以下
- 短周期地震動・・0.5〜1秒
- やや短周期地震動・・1〜2秒
- やや長周期地震動・・2〜5秒
- 長周期地震動・・5秒以上
以上から大雑把にいうと、
木造の建物や中低層の建物は固有周期が短いので、短い周期の地震動に影響を受けやすい(ほとんどが活断層のズレが原因です)
高層ビルになるほど固有周期は長くなるので、長周期の地震動に影響を受けやすい(過去あまり経験がなく今後発生するであろう南海地震は海溝型で大きな長周期地震動が予想されている)
という特徴があります。
震源に近い短周期と遠い長周期
震源に近い短周期の地震(活断層型)だと中低層マンションの下の階に住んでいる人は強い揺れを感じます。
一方、同じ地区でも免震構造(すぐ後で説明)が施されている高層マンションの上の階に住んでいると、地震は短周期で建物は長周期なのであまり揺れは感じません。
しかし、その地震に長周期成分が入っていれば、遠く離れた場所にある同じ構造の高層マンションの上層階では相当大きな揺れが長い時間続く可能性があります。
東北大震災の時の東京の高層ビルがそうでしたね。東北で発生した地震の長周期成分が東京までやってきて、固定周期の長い高層ビルを相当の間揺らしました。
共鳴が最悪
学校で音叉を使った共鳴実験をやったことありませんか。周波数が同じ音叉を2つ、少し離して並べ、片方を木槌か何かで叩いて音を出すとどうなるかっていう実験です。
叩いた方の音叉をすぐに手で抑えると音も止まります。ところが、あら不思議、何もしていない隣の音叉が鳴ってるじゃありませんか。これが共鳴です。
音叉は空気の振動で共鳴が起こりますが、地震は地面の揺れ(振動)で共鳴が起こります。
過去に発生した地震の多くは活断層のズレが原因で地震動の周期が短いため、それに近い固定周期を持つ多くの木造家屋や中低層ビルが、共鳴あるいはそれに近い状態になって倒壊・大損壊したのです。
しかし、大きな長周期地震動は未経験です。先に述べましたように、長周期地震動の特徴は、大きく・ゆっくり・長時間揺れますから、こんなのと高層マンションが共鳴したらどうなってしまうのでしょう?
日本最大の地震実験施設のあるE-Defenseでは、超高層ビルに南海地震の揺れに耐えられるか、という実験をしていますが、想定される地震波の3.8倍で倒壊しました。
E-Defenseでは様々な地震実験をやっているので、その様子をのぞいてください。
免震
何階がよく揺れるのかの章の最後に、同じ階でも建物の構造によって揺れ方は違うという話をします。
最近は高層マンションといえば、免震構造が当たり前のように取り入れられています。免震構造のマンションの地震に対する成績は非常にいいです。
建物と地面の間にでっかい積層ゴムを挟んでいる写真を見た方も多いでしょう。
なんとなく感覚ではわかるような気もしますが、実際、免震構造って何をしているのでしょう?
実は、建物の固有周期を長くしているのです。
これにより結果として、多く発生する短い周期の地震動に対しては、あまり揺れなくなるわけですね。
しかしその反面、固有周期が長くなるので、南海地震のような大きい海溝型の地震では相当揺れることが予想されます。
ということで、今まで述べてきたこととは別に、同じ地域の同じ階に住んでいても構造が違えば揺れ方も違うことになります。
1階に住んでいて短い周期の地震に遭っても、免震構造なら、そうでない建物よりあまり揺れないということになるのです。
安全なのは高層階か中層階か低層階か
答え:高層階か中層階か低層階かは必ずしも関係ない。安全性は建築基準で決まる。
マンション選びでまず絶対に確認しなければならないのは、どの耐震基準に基づいて建てられているかです(←ここ滅茶苦茶大事!)。その耐震基準とは以下の3種類です。
- 新耐震基準(1981年以降の建物に該当 関東大震災クラスの地震でも倒壊崩壊はしない基準)
- 旧耐震基準(1971年〜1981年の建物に該当)
- 旧耐震基準以前(1971年以前の建物に該当)
そして、下の表をご覧ください。これは阪神大震災時におけるRC造建築物の、耐震基準別の被災状況です。
耐震基準によって結果がまるっきり違うでしょ。新耐震基準に基づいた建物の成績の良さが光ってます。この結果は、東北大震災でも熊本地震でもほぼ同様です。
ところで、あなたも阪神大震災の時のニュースや写真で見ましたね、3階あたりが潰れている建物、1階がなくなっていた建物。
あれがあまりにも強烈なインパクトを与えたものだから、いまでもマンションの購入候補として、低層階はないと考えておられる方がいます。
しかし、阪神大震災で倒壊した建物のほとんどが新耐震基準に基づいてない建物なのです。
ここではっきりとしたことがあります。
「どの階が安全なのか?」という問いが大切なのではありません。大切なのは「新耐震基準に基づいたマンションは安全」という認識です。
ですから例えば、販売金額が安くても旧耐震基準やそれ以前の建物は購入候補にしてはダメなのです。また、こういう物件は建築年数も概ね40年以上経ってる訳で、これも躊躇材料です。
それでも諸事情で購入対象とせざるを得ない場合
まさに低層階が潰れた実績があるので、そういう意味では上の階がいいかもしれません。
またこういう物件は、耐震改修促進法で耐震診断を行なうよう勧められているので、必ず実施の有無を確認してください。
新耐震基準でも地震に弱い構造とは?
先に示した阪神大震災の一覧表を再度ご覧ください。新基準で「倒壊し修復不可能」が5%あるでしょ。これは何か?です。
実は、ピロティ形式と呼ばれる1階を柱だけにして空いた空間を駐車場などに利用している建物です。この形式の建物は阪神大震災以外の大地震でもやはり成績が悪いです。
1995年には耐震基準の指針が発令されて、RC構造におけるピロティ柱の大幅強化が盛り込まれてはいます。が、この構造自体を避けるのが無難です。
この章の最後に申し上げたいのは・・・
購入対象として最も安全で信頼できるマンションは、2007年の建築基準法に基づいている建物です。これが今選べる最も信頼性のあるマンションです。
この変更は、1981年の新耐震基準から内容が大幅に変わったのではありません。2005年に発覚した偽装事件をきっかけにできており、以下の3点を中心に厳格な運用を義務付けています。
- 構造計算はダブルチェック
- 建築確認審査はより厳しく
- 工程における中間検査の実施
つまり業者がズルをしないように、厳格に耐震基準を守るようにするための施策です。
今まで、車でも食品でも建物でも「日本製は大丈夫」と業界は神話を作ってきました。私もどちらかといえば、そんなふうに思っていました。
が、嘘八百。偽装が出てくるわ出てくるわ。問題が発覚して大騒ぎして、尚再発するのだから救いようがありません。
行政の介入を嫌う民間が、行政の介入を受けなければまっすぐ立てないなんて、情けないというほかはありません。これが日本の現実です。
浸水(津波)発生時に安全な階は?
答え:一概にはいえません。
インターネットでマンション購入希望者の意見を読んでいると、浸水に対する不安の多いことがわかります。
これはどう考えるべきか。3階で大丈夫なのか、いやいや6階くらいでないと不安なのか。
この問題に絶対的な答えはないと思います。じゃあ何を基準に考えるのか?
それは、あなたが買いたいマンションが建っている地域の特性です。まず、必ず確認をしなければならないのが、対象地域のハザード情報です。具体的に何を見るのでしょうか?
例えば、ハザードマップポータルサイトは日本全国の情報を確認できて便利だと思います。また都道府県の各役所もハザードマップを出しているので、「大阪市 ハザードマップ」のような検索ワードで探してみてください。
そして確認しましょう、考えられる最大洪水・最大津波・最大高潮・土砂災害などなど。
また、あなたがこれから住みたいと考えている地域の標高もかならず事前に知っておきたい情報ですね。
「私の求めているマンションの位置は水面からどれくらい高いのか?」
因みに、JR大阪駅から川沿いに海側はほぼ水面下なっていて、改めて驚いてます。
以上のような情報を得て、その地区がマンションの立地場所としていいのかどうか。
もし浸水(津波も含め)が発生しそうな場所なら予想水位にどれくらいプラスを読んで住む階を決めればいいか、というあたりが考え所になります。
最もリスク度の高いのは高層階
はい、全部正しいです。実はここでのリスクとは倒壊のことじゃないんです。
実際に南海地震級の地震が発生した時に予想される被災状況にスポットライトを当てた時、高層階はとてつもなく大変なことになる、という話です。
では、高層階に住んでいて大地震に遭うとどういうことになるのか?
水道や電気
地域広範囲が停電になる可能性がありますが、マンションは、エレベータ・施錠・照明・空調・料理など生活に必要なものがほとんど電気で賄われており、これらが全く利用できなくなってしまうのです。
また、水道が貯水槽方式でない場合は即断水となる可能性がありますし、当然トイレも流せなくなります。
もし、配管が破損していたりしたら、断水時用に風呂に貯めてある水なんかを不用意に流したりしたら、とんでもない迷惑になってしまいます。
以上のような理由から、生活がまるっきり立ち行かなくなるのです。
エレベーター
大きな揺れを感知すると、動いているエレベーターは最寄りの階に緊急停止して扉が開くようにできています(古ければそういうセンサーのついてないものもあるので、基本、全階のボタンを押して最初に停止した階で降りる)。
それ自体は安全上大切なことなのですが、一旦緊急停止をすると、電力やエレベーター自体に異常がなくてもすぐには動かない仕様です。
運転を再開するには、専門のエンジニアが点検をして安全を確認する必要があります。ところが、エンジニアの絶対数が広範囲な大規模災害に対しては圧倒的に不足しており、かつ、優先されるのは病院とか学校などの公共施設です。
ですから、エレベーターが正常運転されるにはかなりの日数を要する覚悟が必要です。
だとすれば、何十階に住んでいる人達がマンションから出入りするには、どうすればいいのでしょう?
避難と水運び
特に免震構造のマンションは地震での被害が少ないことが実証されています。従って、これから発生する大地震で倒壊する心配はあまりないでしょう。
しかし、仮に電気が早期復旧しても、エレベーターや水道の復旧には時間がかかるでしょう。そうすると、住居の状態は良くても避難所に入らないと、実質的に生活できないということも起こり得ます。
ところが、避難所に収容できる人数には限りがあり、家が倒壊して帰る場所のない人たちが優先されるでしょうから、マンションに戻らざるを得ない事態もあり得るのです。
階段での行き来は何階ぐらいが限界でしょうか。一度2Lのペットボトルを2本か4本持って上がってみてください。被災した時はそれを何回も繰り返す必要があるわけです。
普通の体力ならせいぜい10階くらいが限界ではないでしょうか。それに、出入りは水のためだけではないでしょうし、一体一日に何往復せねばならなくなるのでしょうか?
室内被害がひどい
まずは動画をご覧ください。これは日本最大級の地震実験施設E-ディフェンスで行われたもので、東南海・南海地震を想定した揺れを受けた超高層ビルの室内がどうなるかを記録しています。
たとえ建物は大丈夫でも、長周期で長時間大きく揺れると、室内は余程の地震対策を施していないとグチャグチャになってしまいます。
大都市にある200m級のタワーマンションの高層階になると揺れ幅がメートル単位になることが予想され、特に、地震対策の施されていない背の高い家具は非常に危険な凶器になりえます。
阪神大震災発生時にお亡くなりになった方の死亡原因が発表されていますが、室内の家具類が倒れてきて圧死されているケースが非常に多いのです。
しかし、この件については一方的に悲観することもありません。動画に示されている通り、対策さえしっかりしていれば、相当その効果が見込まれます。
もし、すでに高層階にお住いの方は徹底的に地震対策を施しておきましょう。
火事
大地震で火災が発生する可能性は当然あるでしょう。しかし、建物が丸ごと火柱と化す可能性は、まずないと思われます。
というのも、少し調べてもらえばわかりますが、日本の場合は法律でかなり厳しく定められており、相当延焼しにくい構造になっているのです。
実際、高層マンションにおける過去の火事の例をみても、発生元(部屋の中のもの)は燃えるけれど大規模な延焼例はないはずです。
折角延焼しない構造になっていても、ベランダに可燃物を置いていると上の階に燃え広がる可能性があります。絶対においてはいけません。
しかし、一斉避難放送があったら健常者は階段を使わなければならない規則です。もちろん高層階ほど大変です。
そしてもう一つの問題は、一斉に部屋から出てくると階段がすごく混雑することです。暮らしている方の数は想像以上に多いことを覚えておく必要があります。
一方、高層階にはしご車は届きませんし、消火活動に使う非常エレベーターが身体の不自由な方の避難優先で使われると、消火に手間取ることは間違いありません。
また、年々古くなる諸設備が、いざという時にちゃんと機能するように点検されているか、避難訓練は適切に行われているか、という問題もあります。
このように諸々検討すると、心配はしなくていいかもしれないけれど、やはり、より簡単に屋外に出られる方が精神的に楽です。
まとめ
いろんなことを申し上げました。読んでいただいて、今あなたは何階に住みたいですか?
テレビドラマ「砂の塔」ではタワーマンション高層階に住む人たちの優越感を浮き彫りにしていました。かなり象徴的で印象に残りましたね。
確かに高額だし、景色もいいです。
でも、それがそんなに自慢できるものかは相当怪しい。むしろ、いざという時にはとんでもなく大変で、困り方も尋常じゃないことがわかっていただけたと思います。
ただ、そんなリスクを負っても高層階がいいと仰る方もおられるので、それはご本人の判断です。地震の際、家具で怪我しないように物的損傷を抑えるために、対策はしっかりとっておきましょう。
今、高層マンションでも低中層階が割と人気があるそうです。そういう方の念頭にあるのは、やはり災害です。事が発生した時でもできるだけ困らない階、という発想ですね。
繰り返しになりますが、津波発生時のこともありますし、購入マンションが存在する場所のハザード情報は必ず確認をしておいてください。どういう場所なんだ、ということを頭に入れておいてください。
最後に、ネット上の意見の一部を一覧にしました。皆さんは何階に住みたい(住みたくない)のでしょうか?