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ある日突然のオファー
派遣会社(勤務先)で突然「うちと直接雇用の契約をしませんか?」と誘われたらどうします?
??「えっ、いきなり正社員のお誘い?」??
まあ耳障りはいいです。「箸にも棒にもかからない」とか思われていたら、絶対に聞くことのできない言葉です。とりあえず「悪い話ではない、評価されているな」などとも思うかもしれませんね。
でも、だからといってそんなに簡単に結論を出せるお話でもありません。
この記事では「直接雇用のオファー」という切り口から、派遣労働者を取り巻く契約関係の再確認と、雇用形態(派遣・正社員・契約社員など)の違いがどう影響してくるのかを考察します。
それにより、今回の例のような転機にあなたが立った時に、どう考えれば、間違わないように踏み外さないように進めるかを明らかにしていきます。
尚、この記事には親記事があるので、そちらを先に読んでいただければ、より全体が把握しやすくなると思います。
直接オファーをどう考える
個別の問題なので一概には言えませんが・・・
- 波なくブレなく一定品質の仕事を安定的にこなしている
- 正社員と比較しても遜色のないスキルを持ち発揮していると認められる
のような感じで、派遣先があなたを評価していることは間違い無いでしょう。
しかし・・・・・
「だから、我が社と直接契約しましょう」というあなたへのダイレクトな申し込みに対し、二つ返事で「はい、ありがとうございます」と簡単には言えません。
なぜか?
- 直接契約が正社員を指しているとは限らない。むしろ契約社員である可能性が高い。
- もし契約社員として直接契約しても給料が今より悪くなるわけがないという保証はどこにもない。
- 派遣先が契約しているのは派遣会社であってあなたではない。なのに派遣会社を無視してあなたにダイレクトオファーをしてくるのは問題あり。あなたは、あくまでも派遣会社に雇用されている身である。
ということなのです。
口止めをされたら腹を括る
まず 3. について考えてみましょう。
もし、派遣先があなたと直接契約したければ、契約関係から考えても派遣会社の担当者に相談するのが筋です。
派遣社員の送り出しと受け入れは突発的なものではありません。勿論、正社員の育休や入院など一時的な理由で、その期間のみ派遣社員が必要という派遣先もあるでしょう。
しかしそれとて、派遣会社と派遣先の恒常的な付き合い関係があるからこそ、いざという時に間に合うわけで、持ちつ持たれつの信頼が築かれているはずです。
そんなわけで派遣会社は派遣先を信頼して契約をしているのに、自社が雇用している優秀社員を次々と派遣先に勝手に引き抜きされたらどういうことになりますか?
派遣会社と派遣先の関係には、間違いなく亀裂が入るでしょう。派遣会社にしてみれば、そんな派遣先に優秀社員をおちおち送り出せないでしょう。
まあ、派遣会社と派遣先の力関係が大きく違う場合は、それなりの歪んだ関係になるかもしれませんが、一般的には派遣会社からの信頼を落としてしまうダイレクトオファーなんて、派遣先にしたら何もいいことはないはずです。
にも関わらず、ダイレクトに引き抜きにかかるというのは、これは、派遣先の姿勢に本質的な問題があると考えてもおかしくはないはずです。
細かいことを問わずとも、本質的にズレているような会社は、一事が万事である可能性が高いと考えた方が安全じゃないですか。
ましてや、派遣先から「この件については派遣会社には漏らさないように」と口止めされるようなら、腹をくくって次の派遣先を考える必要性も出てきます。
なぜなら、「そういう曲がった会社でもいい」と秘密裏に直接交渉しない限り、契約満了時以降継続されることはないと思うからです。
いやいや、そうではなく、きちんと順序を踏んでのケースもあるでしょう。
あなたと派遣会社の契約が終了してからの話としてなら、勿論、これは十分成り立つ話です。あなたが有能で派遣会社が残念に思うとしても。
信頼できるという前提で、前向きに話を聞くというのは十分アリだと思います。
ただ、今までそういう交渉は派遣会社がしてくれていたものを、当然ながら、今度は自分で全部する必要があるわけです。
契約の当事者として相手が差し出す条件とこちらの希望をすり合わせ、抜かりなく法律も踏まえて合意に持っていくのは、殊の外大変です。
あとで後悔するようなサインだけはしてはいけません。
派遣先の直接オファーに対し、法はどういう見解をしてしているのでしょうか。
労働者派遣法33条では・・・
あなたと派遣会社の雇用関係が終了したのち、派遣先があなたを直接雇用することを制限できない、と定めています。
ここで注目したいのは「雇用関係が終了したのち」の部分です。
あなたが派遣会社との契約を期限が来るまできちっと守り、その契約を問題なく終了したのであれば、そもそも縛られる「元」がない状態です。
例え、派遣会社との契約に・・・
「派遣先とは直接契約の話をしてはいけない」という意味の文言があったとしても、派遣会社との契約が満了になっていれば関係ありません。派遣法33条の通りです。
原文は厚労省のHPに記載されています。
会社同士の契約と職業選択の自由
派遣会社と派遣先は当然契約を結んでいるのですが、その中の文言で・・・
- 派遣労働者との契約中あるいは契約終了後、直接雇用契約を結ぶ場合は事前に(1ヶ月前にとか)連絡すること
- 直接雇用契約が成立した場合は仲介手数料を支払うこと
というような内容がある場合もあります。これは、労働者派遣法施行規則第22条第4号の紛争防止措置を根拠としているようですが。
基本的には「法律は直接オファーを禁止しない」で述べた通りです。
あえて派遣会社の立場に立てば、金の卵であるあなたを持っていかれるのであれば、せめて「手数料をくれ」というところでしょうか。
しかし、この話が成立するためには・・・
- 派遣会社が有料職業仲介事業の資格・認可を受けている場合
- あなたや派遣先が仲介を望む場合
確かに、あなたにとっては、難しい雇用契約を派遣会社にしてもらう(あなたは希望を派遣会社に言うだけ)メリットはあるかもしれません。
でも派遣先にとっては、あなたが今まで受けていた給与の数ヶ月分を派遣会社に支払う必要があるので、これはできれば避けたいコストでしょう。
再度繰り返しますが、あなたが派遣会社との契約を円満に終了したのであれば、派遣会社が派遣先とどのような契約をしてようが、派遣会社はあなたが持っている職業選択の自由を制限することはできません。
それを尚も制限しようとすれば・・・
- 上記の労働者派遣法33条に抵触する
- そもそも憲法が保障する職業の自由に抵触する
当然そうなります。
派遣会社によっては、当然のように「紹介料が発生する」とあなたに説明する可能性もありますので、ここは覚えておく必要があります。
直接雇用後の地位と給与
今度は、「直接オファーをどう考える」の1.と2.について考えてみましょう。
派遣先にとって、派遣労働者はかなり重宝する存在です。短期契約且つそれなりのコストで、研修期間もなく、ある程度のスキルを持った人に仕事がしてもらえるわけです。
また、経営規模や状態の変化に応じて派遣総人数の調整もできます。固定費にならない労働力は本当に大きな魅力です。
なのに、派遣先が、その重宝さを捨ててまでも手元にとどめておきたいと判断する理由があるから直接雇用のお誘いをあなたにするのです。
個別の事情はその数だけあるのでしょうが、少なくともあなたの能力を買っていることは確かでしょう。
そういう意味においては、前向きに判断・評価してもいいと思います。こういうオファーは、最終的に派遣先と直接雇用契約をしなかったとしても、派遣会社に対して戦略的に使ったりできる可能性があります。
契約社員なら謝絶
親記事で申しましたが、派遣労働者・派遣元・派遣先の三者は、基本的に、それぞれ自分にとって一番都合の良いチョイスをします。これは当然です。
その結果、あなたと直接契約するのがベストチョイスだと判断してあなたにオファーしたとします。
しかし、それは先に述べた通り、直ちに正社員にすることを意味しません。なぜなら、派遣先にとって、あなたが契約社員であれば尚言うことがないからです。
でも、それはあなたにとってはとんでもない不都合です。
では、契約社員と正社員は何がそんなに違うのか? これを是非知っておく必要があります。
下の一覧表をご覧ください。
一目瞭然ですね。契約社員と正社員は全く違います。地球と月くらい違います。
もっとも契約社員と勤務先との契約内容は、案件ごとに大きく異なってくる可能性もあり、一括りで捕まえることはできませんが。
資金繰りもままならない小さく不安定な会社との契約と、大手で十分余力があって社員に関する制度も充実している会社との契約では、その差は自ずと明らかです。
ですが、どちらにしても契約社員と正社員は根本的に差というか違いがあります。
地位が極めて不安定
一番大きな違いは「安定性」です。
正社員は、背任行為をしたり、会社自体が倒産したりでもしない限り、辞めさせられる心配がありません。雇用期間の定めがないのです。
対して契約社員は、契約を延長していったとしても5年が最長です。
5年を超える場合は、望めば無期契約になる「無期転換ルール」があってこれを会社側は断ることができません。
一方、法律は契約社員を含む有期雇用は、一時的あるいは臨時的な業務を行ってもらうためのものであり、継続的な業務のためのものという想定をしていません。ですから雇用が長期にわたる場合は、基本的に無期雇用にすることを求めています。
しかしながら、継続的な業務に有期雇用の労働者をつかせ反復的に契約を更新しつつ、しかも、自社の都合で切っているケースが非常に多いのが現状です。
「雇止め」という単語を見たことがあるでしょう。
もし会社側が「無期転換申込権」を行使させないために「雇止め」を行った場合、しっかりした弁護士をつけ、争うに必要な準備を十分にして裁判すれば、相当いい勝負ができる可能性があるでしょう。
しかしですね、仮に裁判で勝訴したとしても、争った相手の懐の中で他の従業員の目も気にせず仕事ができるか?って話です。
現実はもっと過酷で、実質無期雇用のように使ってきたのに、無期雇用転換制度ができた途端に契約回数を切ったりします。
或いは、5年にかからぬようにするためクーリング期間(六ヶ月)を待機とし、それが過ぎたら再び契約するといったことも行われています。
なんでこんなことになると思います?
それは、雇い先に対する強制性を法が持っていないからではないでしょうか。違反をすれば切符を切る道路交通法とは違うんですね。
加えて、何度も申し上げますが、みんな自分にとって一番都合のいいように解釈し行動するからです。
以上のような理由から、契約社員は正社員とは比べものにならないくらい、その地位が不安定であるということです。
直接雇用のオファーが契約社員前提ということなら受けないほうがいいという最大の根拠です。
給与を含めた待遇
正社員と比較した場合、当然いろんな面で待遇はよくないです。
一概には言えないですが、仕事に対する責任や量や時間は正社員とほぼ変わらないのに・・・
- 給与は低い
- 残業代が支給されない
- ボーナスが出ない
- 諸手当はあっても交通費のみ
- 昇給や昇進はない
- 福利厚生面でも弱い。例えば一年契約で育休を取れば実働日数がなくなってしまうので実質取れない
どうです? 差がありすぎでしょ。だからこそ会社側はそれで済むものなら契約社員にしておきたいのは、ある意味当然です。
逆に、あなたにとっては、どう考えたって契約社員になってほしいというオファーは魅力ないでしょう!? 受ける理由がないでしょう。
「能力を評価してわざわざ声をかけてくれるのであれば、正社員としてオファーしてよ」って思いませんか?
と、ここまでは一般論。
場合によっては契約社員の方が都合がいいと考えられるケースもあります。
- 夫が転勤族で数年おきに引越しをする場合(仕事のためなら別居も厭わないっていう方はその限りにあらず^^)
- もともと会社員ではない本業があって、金銭面で不安定なので副業として会社勤めをする場合
- 一般正社員としての拘束時間が自分のライフスタイルに合わない場合。もっと子供といる時間が欲しいとか。
- 一ヶ所で長く仕事をする、長期間同じ人たちと関係を持つ、そういうのが苦手な場合
このように個別の事情で正社員には向かないこともあります。
しかしそんなケースでは、最初から望んで契約社員(或は派遣社員)に応募するわけで、この記事のテーマである「直接雇用のオファー」とはやや意味合いが異なります。
何れにしても、一般的には、どんな雇用形態よりも正社員が労働者にとって一番条件が良いわけで、契約社員とは条件が違いすぎます。
一方、派遣社員と契約社員の比較では、派遣社員がよりデメリットが多いと一概には言えないでしょう。
特に、大手で実績が十分にあるような派遣会社に登録している場合は、相当サポートしてもらえますしね。派遣先で何かあっても安心して相談できますしね。
以上、一般論としては、直接雇用のオファーがあっても、それが契約社員を意味していれば受けない方がいい、というのが私の結論です。
逆に「正社員」としてのオファーなら、契約内容には細心の注意を払いつつも、相当積極的に交渉してもいいのではないでしょうか。
まとめ
今回の記事では、「直接雇用のお誘いを受けた」という切り口で・・・
- 有期労働者
- 派遣会社
- 派遣先
というお互い立場の違う三者が、どのように考え行動しようとするか、そこに法律を絡めて説明をしてきました。
そして、そんな世界で仕事を続けているあなたに転機が訪れた時、取り巻く問題や可能性は何なのか。一つ一つ吟味し、その上でどういう選択がふさわしいのかを考えてきました。
私の結論は・・・
- 正社員になるチャンスがあるなら交渉に乗る
- 契約社員ということなら派遣社員としての現状と比較して考える
というものですが、基本的に「契約社員は避けるべき」に傾いています。
勿論、「いい派遣会社」に属しているのが、かなり大きな前提となります。
以上、少しでもご参考にしていただければ幸いです。
※ 無期契約転換に関心をお持ちでしたらこの記事をどうぞ。
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